この記事では『風の谷のナウシカ』の考察として、腐海と瘴気の正体についてついて考察・解説していきます。
“ディストピア”といえば腐海というくらいメジャーな設定ですが、いざ正体について考えると分からなくなりますよね。
腐海とは何を暗喩しているのか?瘴気とは猛毒なのかはたまた高濃度の酸素なのか解説・考察していきましょう。
目次
腐海とは。毒を放出する人類に”攻撃的な”森。
名称 | 腐海 |
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特徴 | 『風の谷のナウシカ』に登場する架空の植物群。菌類を主体とする独自の生態系を持ち、様々な”蟲”が生息。 |
特性 | 瘴気と呼ばれる猛毒を放出。この瘴気は人々にとって有害で、「5分で肺が腐る」とも言われる。 |
起源/正体 | アニメ版では汚染された大気を浄化する役目、漫画版では旧世界人類が浄化目的で人工的に作られた生態系として描写されている。 |
生態系の特徴 | 蟲や菌類のネットワークが存在し、腐海を敵対的に扱うと報復行為を受ける。 |
対人類影響 | 攻撃的な生態系であり、人類の生息域を狭め、人類の衰退を招いた。 |
関連の場所・存在 | 墓所: 旧世界の知識や叡智、人類の種が保存されている場所。腐海や人類の由来と密接に関係している。ナウシカやその仲間たちは墓所の目的に反発し、墓所を破壊する。 |
瘴気の正体 | 猛毒とされるが、実際の正体については明確には語られていない。一部の考察では高濃度の酸素ではないかとされるが、その正体は未確定。 |
元ネタ | 複数の元ネタ候補が存在する。放射能の恐怖、シヴァーシュ(現実の腐海)、そしてSF作品『地球の長い午後』などが考えられる。 |
森の人 | 腐海で共存する人々。火を使用せず、蟲との意思疎通能力を持つ。腐海との共存の秘訣は蟲や菌類との感謝や尊重にあり。 |
腐海とは『風の谷のナウシカ』の漫画原作及び、アニメ映画劇中に登場する独自の生態系を持つ架空の植物群です。まるで森のように広がる菌類を主に生態系が構築されており、森の中には大小様々な”蟲”が生息しています。
一見すると太古の原生林にも見えますが、現実の森との違いは、蟲以外にとって肺に吸い込むだけで、有毒な瘴気と呼ばれる猛毒を空気中に放出するところです。
「5分で肺が腐る」というセリフが有名であり、腐海に入る際には瘴気の吸引を防ぐ防毒マスクを装着する必要があります。
さらに、腐海には蟲だけでなく菌や植物も含めたネットワークのようなものが存在しているような描写があり、「腐海を焼く」「蟲を殺す」など敵対的な行動をすると特定の種類にが限らず、すべての腐海に生きる生命体から報復行為を受けることになります。
この人類に対してあまりにも攻撃的な生態系は巨大産業文明が崩壊しても、それなりに豊かに暮らしていた人類の生息域を狭め、急速な衰退の道を歩ませたのでした。
腐海の正体と元ネタ。人工的に作られた森。アニメと漫画の違い。
アニメ映画版では「腐海が実は人間が汚した大気を浄化している」ということが明かされ、更に原作漫画では「腐海は旧世界人類が世界を浄化するために、人工的に生み出した生態系」ということが明かされます。
自分たちを苦しめていると思っていたものは実は救世主であり、救世主もまた人類自らの手で作りだしたものであったという、人間の業の深さとしぶとさが原作漫画では描かれています。
ナウシカが物語の最終盤に訪れた墓所という場所には、旧世界を知る人造の神がいました。墓所の主は、ナウシカ達に旧世界末期の壮絶で悲惨で最悪の惨状を語りました。
「数百億の人間が生きるためにどんなことでもする世界」
「有毒の大気、凶暴な太陽光、枯渇した大地、次々と生まれる新たな病、おびただしい死」
「ありとあらゆる宗教、ありとあらゆる正義、ありとあらゆる利害、調停のために神まで造ってしまった」
旧世界の末期とは、いろんな病気や天変地異が人間を襲ってもそれでも争いをやめなかったまさに地獄の様相でした。
多種多様な考えや宗教が氾濫し、もはや人間同士での調停が不可能と判断した当時の人々は、圧倒的な武力を持つ第三者、つまり神のような存在を欲し、調停と裁定のために造り出したのが巨神兵でした。
そして、絶望の時代の中で唯一価値があるものとされた“音楽と詩”を後の世界に保存し、汚染された世界が浄化されるまで“音楽と詩のみを愛する平和な新人類の卵を守る”のが目的でした。
“墓所”とは醜い旧世界への訣別の意味が込められた言葉でした。
また、ナウシカ達の正体は旧世界の子孫ではなく、汚れた世界でもある程度適応できるように造られた人造生命体であり、浄化されて綺麗になった空気では生きていけないという事実も語られます。
ナウシカ達もまた、腐海のほとりに生きる腐海の生態系の一部としてデザインされた生命体だったというわけです。
腐海の果。天地が清浄な美しくて甘い世界。
原作漫画では腐海の果、つまり”世界が腐海によって浄化された姿”を少し見ることができます。そこには蟲ではない虫や、鳥や哺乳類などが生を謳歌していました。
しかし、そんな土地はナウシカが生きている時代にはまだほんの少ししかなく、さらに汚い空気の中生きられるようデザインされたナウシカたちは、そもそもそこでは空気が綺麗すぎて逆に血を吐いてしまうそうです。
ただそれでもナウシカはその世界にもいつか人間の体が適応するよう進化していくと信じます。
旧人類の開発した腐海式浄化システムは、毒素の強い瘴気を放出するという欠点があり、地球全土で浄化を終わらすには果てしない時間がかかります。
墓所には、旧人類の知恵と純粋な心を持つ新しい人類の種が保存されています。ナウシカたち現代の人々は、この大切な遺産を蟲や天気の変動、その他の予測不能なリスクから守るために生まれた存在です。
一応ナウシカたちの体を清浄な空気でも生きられるように改造する技もあるそうですが、清浄のみが正しく、一切の汚濁を忌むべき闇と断じる墓所の主を信じることはできず、ナウシカは汚濁も生命の一部であることを墓所に説き、墓所を破壊します。
墓所についての詳しい考察こちら
腐海の元ネタと瘴気の正体。毒か薬かはたまたそれ以上のものか。
腐海の元ネタについて語る前に、瘴気について語らねばなりません。よく瘴気の正体は高濃度の酸素ではないかという考察を耳にしますが、個人的には腐海が出す瘴気は毒で間違いないと思います。
そもそも原作漫画で腐海が吐き出す瘴気は”猛毒”とはっきり名言されているというのもありますが、毒と言っても状態を安定化した毒にして吐き出しているというのが正しいでしょう。
人間が作り出してしまった危険で 土に帰らないような科学物質や合成物質を、カビや毒の結晶のようなものに変えて胞子とともに吐き出しているのだと思います。
この毒を安定化させるというのが大事です。
ニトログリセリンのようないつ爆発するかわからないものをダイナマイトにして安定化させるような、放射能汚染水を半減期がくるまで、体内で貯蔵する仕組みが腐海の植物にはあるのだと思います。
そのため、瘴気は毒は毒でも自然には優しい毒なのではないかと考えられます。
腐海の元ネタ候補①原子力や放射能の恐怖。
一度汚染されてしまうと、人間が住めるようになるまで恐ろしく長い時間がかかるというのは、腐海と放射能に通じるところです。
当時のアニメージュ等の宮崎駿監督のインタビューを読むとはっきり明言はしていませんが、腐海の恐怖は他人事ではないということを思ってほしいという意思が強く伝わっていきます。
特にチェルノブイリ原発事故地の周辺の人間が住めなくなり、逆に豊かになっている生態系なども腐海に通じるところですね。
腐海の元ネタ候補②現実の腐海。シヴァーシュ。
現実世界の腐海と呼ばれる土地はウクライナ本土とクリミア半島の間に横たわる、アゾフ海の西岸に広がる干潟です。
高温でめったに雨も降らず、海水が濃縮されナトリウムやマグネシウム、臭化マグネシウムや硫酸マグネシウムなどの無機塩類が多量に含まれており、この特殊な環境で繁殖するドナリエラという藻類の影響で、泥とはまた地がう濁った橙色のようなピンク色のような異様な水の色をしています。
ほとりに住んでいる民族からはその見た目から泥、汚れを意味する言葉で呼ばれており、夏に気温が高くなると腐ったような悪臭を放つためシヴァーシュ、腐海と呼ばれています。
多種多様な蟲や菌類が森を形成しているナウシカの腐海とは見た目には大きな違いがありますが、人間が到底住めないところにも独自の生態系があったり、シヴァーシュの見た目がナウシカの腐海よりも酸の海に似ていたりと、つながりはありそうです。
腐海の元ネタ候補③巨大な植物群が繁栄した『地球の長い午後』
昔のSF作品には、腐海のようなものがいくつか登場します。人類が衰退したあとの地球では星と星の間に根を張るような、巨大な植物まで生まれてくるのではないかというのが『地球の長い午後』では描かれています。
腐海は『地球の長い午後』に出てくる植物群の繁殖力を落として攻撃力を落とした感じでしょうか、それとも腐海も頬っておいたら星から星に根をかけるような生態が生まれてくるのかもしれません。
森の人と腐海。腐海と共存する術。深い歩きのコツは?
上記でも語りましたが、腐海には蟲と菌類による独自の生物群、ネットワークが存在します。王蟲、大王ヤンマ、ウシアブ、ヘビケラなど形状や大きさなど、多種多様で異なる種と見て取れますが、蟲同士の仲間意識が非常に強く意思疎通も可能で、外部から侵入してきた者が蟲に対して、敵対的な行動をすると、あらゆる蟲達が一斉に襲いかかるという排他的な特徴があります。
この蟲たちは腐海の出す瘴気は平気なぶん、逆に腐海の外では生きていけないという特徴がありますが、まるで蟲たちの行動を後押しするかのように腐海の菌類は胞子をばらまいたり、苗床として蟲を使うことで蟲達の活動範囲を広げます。
このことから腐海と蟲には手を出さないのがあの世界のルールなっています。
しかし、一部にはそんな蟲達の住む腐海に生きる人間たちがいます。
彼らは森の人と呼ばれ、火を使わず、蟲に感謝(念話によるものか態度的なものかは不明)を捧げることで腐海で生活をしています。
森の人についての詳しい記事はこちら
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森の人の出自は深くは語られませんが、全員が念話を扱えたり、肌が以上に綺麗(通常瘴気に侵されると皮膚が硬化してしまう)であったりと、旧世界人類とも深いつながりがあるのではないかと予想されます。
腐海を造り、浄化の仕事を腐海や人造人間にただ任せるのではなく、自分たちでも見守ろうという旧世界人類の一部の高潔な人たちの子孫ではないかと個人的には考えています。
まとめ。腐海の正体は人工の生態系であったとしてもと尊いもの。
愚かな人類が汚した地球を浄化する救世主だと思った腐海の生物郡が、愚かな人類によって生み出されたものだと知ったとき、ショックとともに人類のたくましさと、生物の尊さに人工も自然物も関係ないと改めて思いましたね。
作中ではナウシカが王蟲の心を覗くシーンがあります。そこで王蟲が腐海について語ります。我らは「全にして個、個にして全」であると。
意味は「生命体は1つ1つの個体が結びついてやっと生きていける」ということで一個一個切り離して考えることはできないということです。最初に聞いたときは、腐海と蟲は独自のネットワークで繋がっているスゲ-という意味なのかと思いましたが違いました。
これは墓所が行おうとしていた”清浄”と”汚濁”の分離をしては、生物の機能も生命も維持できないというナウシカの意見に繋がります。
死を拒絶し、世界が清浄になったら腐海をまた作り変えるという生き方はもはや生き物ではなく、死と汚濁のサイクルこそ生物だとナウシカは腐海から学んだのでした。
以上まとめると
- 腐海とは人類に攻撃的な植物群系であり全にして個、個にして全の一つの生命体とも言える。
- 腐海は吸い込むと肺を腐らせる毒素を放出する植物群。
- 敵対的な行動をするとすべての腐海に生きる生命体から報復行為を受けることになる。
- アニメ映画版では「腐海が実は人間が汚した大気を浄化している」と明かされた。
- 原作漫画では「腐海は旧世界人類が世界を浄化するために人工的に生み出した生態系」と明かされた。
- 腐海の誕生による人間の業の深さとしぶとさが原作漫画では描かれている。
- 原作漫画で腐海が吐き出す瘴気は猛毒とはっきり名言されている。
- 元ネタは放射能、シヴァーシュ、『地球の長い午後』かも。
宮崎駿監督の最新作『君たちはどう生きるか』には残念ながら腐海や蟲のようなものは登場しませんでした。個人的には荒廃した世界や世紀末、終末が大好きなのでそういう世界が観たいですね。
以上、最後まで読んでいただきありがとうございました。