(2020/05/09)『エヴァンゲリオン新劇場版』3作品がYouTubeや公式アプリに無料で公開され、『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』への期待感がさらに高まっています。
これを機にTVアニメ版の『新世紀エヴァンゲリオン』や、『旧劇場版エヴァンゲリオン』を観たという方も多いと思います。
しかし、『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』をさらに楽しむためには、まだ観て欲しい作品があります。
それは庵野秀明監督作品『シン・ゴジラ』です。
『シン・ゴジラ』ができたからこそ『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』が出来る。
なぜ『シン・ゴジラ』を観ておくのを勧めるのかと言うと、『シン・ゴジラ』からは庵野監督の『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』でもやりたいこと、作家性が伝わってくるのです。
庵野監督の「表現したいもの」が『シン・ゴジラ』で垣間見ることができます。
これはパンフレットやインタビューでも庵野監督が語っていることですが、そもそも『シン・ゴジラ』は庵野監督が、『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』に全力で望むために造られました。
庵野監督は『エヴァンゲリオン新劇場版:Q』の公開後、鬱病になってしまいました。
「制作スタジオに近づくことさえできなかった」と語っています。
東宝からの「新しいゴジラを作って欲しい」というオファーには、最初は断ったそうです。
しかし、東宝の誠意と樋口真嗣監督の熱意に心動かされ、『新たな作品を自分に取り入れないと先に続かない』と思った庵野監督は『シン・ゴジラ』の制作に踏切ったそうです。
どれだけ『エヴァンゲリオン』というものが、庵野監督にとって大きな存在か分かります。
『シン・ゴジラ』のパンフレットにのっている庵野監督へのインタビューの大半が、『エヴァンゲリオン』が延期することへの謝罪と待ってくれているファンへの感謝が綴られています。
(それでも制作が決まってからはG作品メモという企画書を作ったり(初代ゴジラの企画書と同じ名前の企画書)けっこうノリノリになってるのがおもしろいところ)
『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||冒頭10分間』と『シン・ゴジラ』の関係性
つながりといっても、『シン・ゴジラ』と『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||冒頭10分間』の時間軸が直接繋がっているわけではありません。
(もしかしたらそんな展開があるかもしれませんが笑)
『シン・ゴジラ』にも出ていた『庵野監督らしい表現』が『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||冒頭10分間』にもありました。
冒頭10分間に関する動画や考察、解説
大地のコア化によって、真っ赤に染ってしまったかつての華の都パリ。そんなパリを元の状態に戻すため、「ヴィレ」のメンバーがする。
大地のコア化に関する記事
迫るタイムリミットに、八号機とネルフ製エヴァンゲリオンとの戦いから、なんとなく「急いでやらなくちゃいけない」ことがわかります。
なぜタイムリミットがあるのか、これまで『エヴァンゲリオン』を観てきた人なら何となくわかると思います。
タイムリミットをオーバーすれば、大地が真っ赤に染まって(コア化して)、元の機能を失っているように、人間もその場に留まり続ければ、大地と同じく人としての機能を失うからだと推測できます。
しかし、このシーンがすごいのは、そんなエヴァンゲリオンの細かい設定を知らない人でも緊迫感が伝わるということです。
「汚染された空間。急がなければ人体に悪影響を及ぼす。」
何となく何かに似ていると思いませんか?
そうです。『コア化』は『放射能汚染』と似ているのです。
東日本大震災で多くの人が身近に感じる現実の恐怖と、身近に感じないはずの『大地が赤く染る』現象。
虚構の存在に慣れていない、コアなエヴァンゲリオンファンじゃない人でも、既視感を感じることで、なんとなく理解することが出来、アクションに夢中になることが出来るのです。
嘘に真実を混ぜることで、嘘がバレにくくなるのと同じように、現実の恐怖と少し似せることで難しい状況説明をわかりやすくしているのです。
虚構を現実にみせる表現が庵野監督は天才的に上手です。
シン・ゴジラで描かれる『活動限界』。
この上手すぎる表現は『シン・ゴジラ』でもありました。
『シン・ゴジラ』は実写映画なので、コア化といった表現ではなく、そのまま「ゴジラから放射能がでている」という設定になっています。
ゴジラから『放射能がでている』という設定は1954年に公開された初代ゴジラから引き継がれています。
『シン・ゴジラ』が休眠状態になった時、自衛隊が交代で監視している様子が描かれています。
休眠中のゴジラの放射線量は安定していることから「寝相はいいんだな」「その分腹にエネルギーためてるってことだ」というプロっぽいかっこいい会話があり、「ピーピーピーピー」という電子音が聞こえます。
これは交代を知らせる無線の合図などではなく、放射線被曝バッチだと考えられます。「人間が放射線を浴びてもいい許容値を超えた」ということを知らせる音です。
また、その後の自衛隊員達がゴジラが放射熱戦を吐いた跡地を調査するシーンで、「行動可能時間残り10分。」という無線が聞こえてきます。
『活動に限界がある』という状況を庵野監督はよく使います。
エヴァのアンビリカルケーブルや、コア化された大地での活動時間、ゴジラの近くにいられる時間などなど。
庵野監督が作画担当をした『風の谷のナウシカ(映画版)』に登場する『巨神兵』も、力を発揮できたのはごく短い間だけです。
このことから、「ゴジラやエヴァなど、人智を超える存在」と人間が関わる時には制約が存在するという庵野監督の思想がわかります。