※『CURVE TRAILER』公式Youtube トレーラーより
ティム・イーガン監督の、約10分間の短編映画『curve』が、SNSを中心に話題を呼んでいます。
「一人の女性が、絶妙な斜面から落ちないようにする」という単純な内容にも関わらず、誰しも経験のある恐怖を描いており、手に汗握ってしまいます。
個人的には、ワンアイデアストーリーのホラー作品はあまり好きではありませんが、『curve』に関しては『エモい』という言葉で済ましてはいけない凄味がありました。
そこで、本記事では『curve』の恐怖の種類と考察について書いていこうと思います。
先に『curve』を観てから読んでいただけると、より楽しめると思います。
目次
恐怖の種類は、CUBEやSAW似。サバイバルホラーっぽい。
「目が覚めると、いきなり危ない場所」というホラー作品は多く存在します。
「目が覚める」という演出でなくとも、「いきなり危機的状況を突きつけられる」というのは、冷静に考える時間を奪い、視聴者に大きな緊迫感を与えます。
そういったものの多くはサバイバルホラーまたは、パニックホラーと分類されます。
有名な作品を上げると『CUBE』や『SAW』、日本の最近の作品だと『神様の言うとおり』などです。
サバイバルホラー、パニックホラーの多くは「いきなり危機的状況」というシーンの前に、日常シーンがあります。
日常を先に描き、『突然の危機的状況』となった時に、より「理不尽」や「絶望」を視聴者に与えることができます。
ですが、『curve』にはそれがありません。
そのため、一部の人は置いてけぼりになってしまいますし、ホラー映画の構成オタクの人からしたら物足りないと感じるかもしれません。
しかし、そもそも『curve』は短編映画で10分間という短い尺なので、仕方が無いことなのかもしれません。
むしろ、普通のサバイバルホラー、パニックホラー映画では、ワンシーンで済ましてしまうしまうような、「高所にいる恐怖」を凄く丁寧に描いています。
滑り台を逆走したり、斜面で足を滑らしたり、誰しも重力に逆らった経験があるからこそ『curve』の演出に思わず手に汗握ってしまいます。
ノコギリに真っ二つにされたり、首を吊られたりする経験なんて、皆ありません。それらは『グロ』『サイコ』が伴って、はじめて『怖さ』として完成されます。
サバイバルホラー、パニックホラーとして『グロ』『サイコ』という要素を覗いて『恐怖』を描いたところこそ『curve』の凄いところだと思います。
『curve』は中絶のメタファー説は合っているのか?
『curve』についての考察は、バズっただけあって多くの説が飛び交っています。
やっぱり作者の隠したメッセージやメタファーを考察するのは、短編映画やショートムービーの醍醐味ですよね。
『curve』の考察の中でも特に有力なのが「中絶のメタファー説」です。
「女性のいる場所が子宮の形に似ている」
「途中から降る雨は羊水や破水を表しているのではないか?」
これらの理由から、あれは「中絶のメタファー」ではないか?という考察ができます。
しかし、それでは中絶とは言いきれず「出産のメタファーではないか?」という意見もあります。
出産のメタファーに関しては、
「先に落ちた人(生まれるはずだった兄弟)の存在」
「必死に落ちないよう抗う女性」
これらの要素からは、どうしても出産というおめでたい連想はできません。
望まぬ妊娠という考え方もできますが、やはり中絶のメタファーという方がインパクトは強くなります。
女性の絶望感、必死に抗う姿様子は、やはり中絶のメタファーかもしれません。
「中絶」と調べれば画像が何個か出てくると思いますが、実際の中絶手術はショッキングです。
ただ、『中絶』のメタファーなら、『中絶』にいたる理由があるはずだと思います。それはなんでしょうか?
中絶の理由は左足?
中絶が行われる際には、必ず理由がなければなりません。日本の場合、刑法には堕胎罪というものがあり、人間の胎児を堕胎させることは罪になります。
しかし、罪にならない場合もあります。
不倫関係の間にできた子ども、暴行や恐喝によって女性の望まぬ形でできた子どもなど。
また女性が強制的に妊娠させられ、経済的に育てていくことが難しいと判断される場合、そして子どもがダウン症など障害をもって生まれてくる場合です。
先天性障害を持つ子どもが生まれてくる場合、医師は親にそれを伝える義務があり、親は中絶するかしないかの判断ができます。
アメリカではこれをwrongful birthとよび、実際に訴訟も起きています。
『curve』では、障害を左足で表していたのではないでしょうか?
女性は終始機能しない左足に悩まされています。左足を直そうとしも状況が悪くなる一方で、結局最後の最後まで左足を直すことが出来ませんでした。
と言っても、左足にそのまま障害があるという訳ではなく、あくまで身体が不自由な状況を視覚的に表現しているのではないかと思います。
感想:事故死のメタファー。ワンアイデアストーリーのホラーは物足りない?
個人的には、最初『curve』は観た時「交通事故」の後かと思いました。
「相手がいること」「生死の狭間にいること」「最初から傷だらけなこと」
手はともかく、頭にも最初から傷がついていたり、足が曲がっている状態が、事故に会った直後の心象風景ではないかと考えました。
頭に傷があるのは、ハンドルあたりにぶつたからで、左足がどうしても真っ直ぐにならないのは、
現実世界でどこかに挟まっているかもしくは、すでに無くなっているからではないでしょうか?
おそらく女性側の過失で事故を起こしてしまって、相手側を殺してしまったのではないかと考えられます。
罪の意識から相手側の血の跡から目が離せず、また、自らの過失で事故を起こしたからこそハッピーエンドでは終われないのです。
そもそもこの映画は、ワンアイデアストーリーであり、ティム・イーガン監督の実験的な映画だと思います。
やっぱりワンアイデアストーリーの短編ホラー映画は少し物足りないない気がします。
個人的には、類感呪術によるホラーが好きですし、ショートムービーでホラー要素を含むならなら、なつみSTEPぐらい伏線を入れて欲しいです。
これからのティム・イーガン監督の作品に期待です。