※Amazonプライムビデオ公式「サバイバルファミリー」より
今回は、現在(2020/06/20 01:41:53)Amazonプライムビデオにて、公開中の『サバイバルファミリー』について記事を書いていこうと思います。
個人的にですが、Amazonプライムビデオのピックアップはほんとにセンスがいいと思います。(上から目線ですみません)
月額500円ほどで観られるとは思えないラインナップです。
本題ですが、『サバイバルファミリー』は『新型コロナウイルス』の影響を多くの人が受けている今、是非観て欲しい作品です。
多少ネタバレを含みますが、細かいネタバレは避けます。それでも構わないという方はこのまま読んでいただけると嬉しいです。
目次
普通のパニック映画とは一味違う。『サバイバルファミリー』あらすじ。
「西に行けば電気が残っている」
「鹿児島の実家の安否」
「鹿児島の実家自給自足ができるかもしれない」
以上の理由から鈴木家は西へと目指すのだった。
普通のサバイバル、パニック物の映画といえば、「なんで大災害が起きたのか?」「自衛隊/軍隊の様子」「病院などの公共機関の様子」を描きます。
むしろ、サバイバル、パニック物の映画を撮る監督は、そういったものが、「災害が起きた時どうなるか?」を撮ることが面白いと語っています。
大抵の映画では、専門家や研究員、軍人が主人公で、「世界がなぜこうなってしまったか?」を描きます。
(中には『クローバーフィールド』や『クワイエットプレイス』のような個人を描いた作品もありますが、『サバイバルファミリー』はしっかり差別化されています。差別化されている部分は後ほど。)
『サバイバルファミリー』は個人に焦点を当てています。
「病院や行政機関、自衛隊/軍隊がどうなってるか?」は一切描かず、あくまで平凡な一家のサバイバルを描きます。
その割り切りがあるからこそ、『サバイバルファミリー』は、他のサバイバル、パニック映画と違う面白さがあります。
『サバイバルコメディ』というジャンルですが、「電気が止まった世界」をCG抜きで描いており、さらにおもしろいのが、「災害のその後の日常が帰ってきた世界」を描いています。
『サバイバルファミリー』の凄さは、新しい日常を描いたところ。※ネタバレあり
『サバイバルファミリー』は、なんだかんだで鹿児島につけます。その道中に笑いあり涙ありがあるわけで、そこが見どころです。
しかし、一番の見どころはやはりラストだと思います。
『サバイバルファミリー』では、電気が消えるという未曾有の大災害が起きた後、普通の日常が帰ってくるのです。
普通と言っても、また同じことが繰り返されないように、国は様々な対策をしているでしょうが、そこは一切描きません。
電気が復活して、車も電車も通常通りに動いて、子どもは学校に行き、父親は会社に行き、母親は家事をします。
災害前と違うところは、災害が起きるより、みんなちょっとだけたくましくなっているところです。
普通にみていると、あっさり流してしまいそうですが、これは他のサバイバル、パニック映画にはないところです。
「ゾンビが発生した世界」、「怪獣やモンスター、宇宙人が襲ってきた世界」、「大災害が起きた世界」。
洋画だとスケールが大きすぎて、
「ワクチンを開発して終わり」「怪獣を倒して終わり」「地球を脱出して終わり」
という映画もあります。
ほんとにゾンビやモンスターが現れたら、そうなるのかもしれませんが、イマイチ現実とは重ねにくいですよね。
そういった非日常を楽しむのもサバイバル、パニック映画の面白さでもありますが、その後がどうなったか明確に描いた作品はなかなかありません。
その後の新しい『日常』を一コマすら描かない映画が多いです。(その後を観客に想像して欲しいという意図があるからだとは思いますが)
しかし、『サバイバルファミリー』は「災害前よりちょっとだけ変わった日常」を描きました。
『サバイバルファミリー』は映画終盤、電気が復活してラストを迎えます。
電気が一度消えたからといって、電気が戻っても電気のない暮らしを続ける訳ではありません。
せっかく覚えた漁やサバイバル術を捨て、もとの電気のある便利な暮らしに戻ります。
電気のない世界で覚えた生活術は、電気のある世界で使えるものだけは継続して、不便なものは便利なものへと乗り換えます。
実家の鹿児島で暮らし続けるのでは無く、東京で生活することを選びます。
ただのコメディと思って流してしまいそうですが、鹿児島について終わりではないからこそ、他の映画とは違うリアリティがあります。
現実の世界でも新型コロナウィルスの影響で多くの人の日常が変わりました。
しかし、コロナが収束した後も自粛し続けるかといえば違うでしょう。
ただ、自粛を未来永劫続けるのではなく、コロナ自粛で覚えた感染回避の術は、新しく来る今までとは少し違う日常に活かします。
また同じような災害が起きたら、多くの人が柔軟に対応できるようになっているでしょう。
そんな人間の『たくましい部分』を、サバイバル映画としてしっかり描いています。
「今までの日常が終わって、今までとは少し違う、新しい日常がやってくる。」アフターコロナの世界を想像しやすくしてくれる映画だと思います。
Amazonプライムビデオは『サバイバルファミリー』をそういった宣伝の仕方はしませんが、今だからこそのピックアップだと思います。
ただのコメディでは終わらない。矢口史靖監督らしい最高皮肉。
矢口監督作品は個人的に『ウォーターボーイズ』が大好きで、『サバイバルファミリー』も期待を超える面白さでした。
『サバイバルファミリー』の面白さは、ただのコメディで終わらないところです。
色んな皮肉やクスッとくるポイントがありましたが、中でも特に面白い(笑えるという意味ではなく)皮肉は、「野犬に襲われる」というシーンだと思います。
鹿児島に向かう途中、山道を歩く鈴木一家。鈴木一家の長女、鈴木結衣は野犬に自分の昼ごはんを上げてしまい、味をしめた野犬はやがて群れとなり、鈴木家を襲う。
このシーンが個人的には一番面白いところだと思います。
鈴木家がこの状況に至るまで、2つの出来事がありました。
1つ目は、人間性の回復です。
鹿児島へと向かう道中食料も水も尽きて、昆虫すら食べようとしていた鈴木家は、養豚農家のおじいさんに助けられます。
おじいさんは、自給自足の生活に順応しており、飢え死に寸前の鈴木家に、逃げ出した豚の捕獲を手伝うのと引き換えに食料と寝床を与えました。
あきらかな、生気を失い、人間性を失っていた鈴木家は、「食料」「文化」「他人」「仕事」を与えられたことで人間性を回復して、また鹿児島への道のりに挑むことができました。
2つ目は、父親の不在です。
鈴木家は雨の中無理をして、川を渡ろうとしました。
その結果、父親だけ流されてしまい、鈴木家は一時父親不在で旅をすることになります。
たよりないと思っていたはずの父親が消えた時の、不安感と寂しさ。
家族を失ったかもしれないという悲しみが、鈴木家にのしかかります。
この2つの出来事があったからこそ鈴木結衣は、犬に昼飯をあげてしまうのです。
食べ物を他の生物にあげてしまえる良いとも悪いといえる人間性の回復。父親がいなくなり、不安感や寂しさを偶然出会った犬で慰めようとします。
長男は、男手が1人減ってしまったということから「自分しっかりしなくちゃ」という思いがありますが、長女はどうしても寂しさや喪失感が勝ってしまいます。
長男は険しい表情から、焦っているように見えますが、長男の心は正常であり、むしろ顔から焦りがなくなり悲しいことがあったのに笑ってしまう(現実逃避に入っている)長女の方が危機的な状況にあります。
こういった過程があって引き起こされる事件が、「野犬に襲われる」というイベントなのです。
『サバイバルコメディ』と言っておきながら、ものすごく人間の心理描写を丁寧に描いています。
さすがは矢口監督、国ではなく、個人に焦点を当てたからには徹底的に個人の心理描写に力を入れています。
ここだけでも凄いのに、さらに凄いのはここ視聴に対する皮肉が入っているところです。
鈴木家を襲う野犬は、首輪や人を怖がらないところから、元々ペットだった犬が、野生化したものだと考えられます。
おそらく、人間が自分のことで精一杯になって育てられ無くなったと理由で野に話したものが大半でしょう。
『サバイバルファミリー』には、この伏線が皮肉として描かれています。
映画の序盤、電気が消えた世界で鈴木家が「これからどうするか?」を模索している時。家をすてて、地方に出ていく、他の家族を多く見かけます。
その中には犬を連れて行く余裕がなく、家に閉じ込めていく家族の姿があります。
犬の鳴き声は悲しそうに聞こえ、多くの視聴者は可哀想と思ってしまうでしょう。
私も初めて視聴する時、「かわいそうだろ、せめて逃がしてあげればいいのに」という無責任なことを思ってしまいました。
しかし、これこそ最大の皮肉です。
視聴者は電気が消えた世界をちゃんと想像できていない、序盤のシーンでは、「かわいそう」「犬を置いていった家族最低」と思ってしまいます。(実際犬を飼ったからには、責任もって一緒に生きていくべき。)
しかし、未曾有の大災害が起きた世界では、自分の家族の命が最優先であり、同じ人間の命をなによりも大切に考えなければなりません。
人間の手助けなしでは生きられないミックス犬はともかく、日本犬や大型犬は野に放せば、必ず野生化してしまいます。
そうなれば人間に慣れていて、賢い犬は人間から食べ物を貰おうとするでしょう。
序盤の「犬を家に閉じ込めておく」という判断をした家族は、正しいとは言えなくも、最善の判断をしていたのです。
むしろ、危機的な状況を重く考えず、自己中心的な判断で犬を逃がす家庭が一番怖いのです。
前半のちょっとしたシーンが、後半の大事件の伏線になるというのは、よくある展開ですが、後半の大事件が、前半のシーンへの皮肉になるという構図はなかなかありません。
前半、「電気が消える」という事件に対して、軽く考えている家族に対して、「危機感ないなあ」と思っていた視聴者も、『野犬シーン』があることによって、自分達も危機感がなかったことに気づかされるのです。
以上が、個人的に思った『サバイバルファミリー』の面白いところでした。他にも面白いところはたくさんあるので、ぜひAmazonプライムにて『サバイバルファミリー』観てみてください。
それでは次の記事で!