『IT/イットTHE END “それ”が見えたら、終わり。』が公開され数週間が経ちました。映画のレビューや感想をみていると「あんまり怖くなかった」「ビックリ演出ばっかのお化け屋敷映画」という意見が多いように思います。
レビュー動画などでも、「ペニーワイズが頑張って怖がらせようとしているように見える」という意見もありました。
この映画を語るにあたって、『怖さ』だけを着目して観るのは、あまりにもったいない!
『ホラー映画』という括りに入れられているばかりに、『怖いか、怖くないか』の評価ばかりされるのが本当に残念です。
個人的に『IT』は、現在流行っている『JOKER』に負けないくらいのテーマ性のある映画だと思っています。
そこで今回の記事では、『IT』の謎シーン、本当のテーマについて解説&考察をしていこうと思います。
前回のレビュー記事でも取り上げた内容もありますが、今回はさらに深い所まで解説していこうと思います。
ぜひ前回記事を見てから、今回の記事を読んでいただきたいです。
【IT レビュー】冒頭の同性愛者の暴行シーンはいるのか?スティーブン・キングのリスペクト作品『IT/イットTHE END』
目次
- 冒頭の同性愛者暴行のシーンの本当の怖とは?
- 『IT』のテーマはいじめ?
- 『IT』はもっと怖くすることもできた?
- 最後に:スティーヴン・キングのカメオ出演について。
冒頭の同性愛者暴行のシーンの本当の怖さとは?
『IT THE END』のレビューをみていると、かなり多いのが冒頭の『同性愛者暴行シーン』について。あの冒頭シーンは本当に上手く描いているシーンとなっています。
「胸くそ悪かった。」「シーンの必要性がわからない。」などの否定的な感想が多いシーンですが、前回のレビュー記事でも語ったように、『同性愛者暴行シーン』の由来は原作小説を書いたスティーヴン・キングにあります。
スティーヴンが原作執筆中だった当時、「ゲイの若者が暴行され、橋から川に落とされ溺死。」という事件に衝撃を受けたということ。
ジェンダーをという考えを受け入れ、同性愛を公言する人も多い現在では、「同性愛者への差別は減った」と思いがちですが、それはあくまで皆が見えるところだけ。
閉鎖された空間では、まだまだ差別はなくなっていません。学校や会社などの閉鎖的な空間では、差別はいまだに続いている。
そう考えていた監督のアンディ・ムスキエティは、冒頭の『同性愛者暴行シーン』を入れることにしたそうです。
「だからってゲイの若者をペニーワイズに食わせる意味がわからない」と思いがちですが、そこがあのシーンの怖いところなのです。
『IT』をペニーワイズが襲ってくる映画として認識している観客に対し、冒頭でゲイのカップルがいじめっ子達に酷い仕打ちを受けているシーンを流します。
ゲイカップルの1人が川に落とされ、見つけたと思った瞬間、ペニーワイズに食べられてしまう。
きっと観客の皆さんは、途中まで「あっ、ペニーワイズが出てくるんだろうな」「いじめっ子達め!ペニーワイズに襲われろ!」と思ったことでしょう。
これは他のパニック映画と同じ現象です。『ジョーズ』を観ている観客は、サメに襲われる人々を心配して観ながらも、サメが人を喰う瞬間を今か今かと待ちわびているのです。
しかし、『IT』のペニーワイズは『ジョーズ』のサメや、『ジュラシックパーク』のティラノサウルスとは違う部分があります。
悪意があり、人の不幸が大好きなペニーワイズはこのシーンでの一番の弱者である、リンチを受けたゲイの若者をターゲットにします。
これがもし、襲われたのがいじめっ子側だったら、多くの人はこのシーンに今ほどの違和感を持つ事ができなかったでしょう。
いじめられた若者をペニーワイズが襲うという違和感を感じることでようやく、観客達はいつの間にか人(いじめっ子達)の不幸を望む側の心境になります。
この映画はそういった、『不幸や心の闇と戦わなければならない物語』だということがわかります。
ヒーローやダークヒーローに慣れすぎた人達は、完全な悪のキャラクターを理解しにくくなっています。
『ペニーワイズ』というキャラクターなだけで、「悪い方(いじめっ子達)を襲ってくれるだろう」と勝手に思ってしまうのです。
この、『いつの間にかペニーワイズと同じ、人の不幸を望む側』になってしまうのが、冒頭の『同性愛者暴行シーン』の怖い部分なのです。
しかし、そんな第2のペニーワイズの皆さんに朗報です。笑
冒頭でゲイカップルを襲ったいじめっ子達が、然るべき報いを受けるシーンが、特別映像として公開されることが決定したそうです。
DVD特典になるのか、一般公開されるのかはまだ分かりませんが、楽しみですね。
『IT』のテーマはいじめ?
『IT』という映画は『いじめ』の構造と似ています。
ペニーワイズに目をつけられた子ども達は、危険な目にあって周りの人間に訴えても、周りの人間は相手にしてくれない。
なぜ相手にしないのか?
『ペニーワイズ』は特定の人間にしか見えないから。
しかし、本当に『ペニーワイズ』が見えないから子供達の話を信じないのか?
ルーザーズ達の地元『田舎町デリー』では、ほかの町とは比べ物にならないほど行方不明者が多い町です。
それもそのはず、ペニーワイズは大昔から存在し、定期的に子供達を襲っているからです。
住人の中には『幼い頃の友人』や、それこそ『自分の子ども』を失った親もいることでしょう。
当たり前のことですが、大人達はわかっているのです。『この町には何かいる』とわかっていながら『面倒事に巻き込まれたくない』が故に、知らないフリをしているのです。
これは『いじめ』の構図と一緒で、『いじめがある事は知っている、でも巻き込まれたくない、どうすることもできないから知らないフリをする』
『ルーザーズクラブ』の子ども達と何も共通点はないのに、どこかこの映画に共感をもてる人は、いじめっ子でもいじめられっ子でもなかったけど、いじめを傍観している人だったかもしれません。
『IT』はもっと怖くすることもできた?
原作の『IT』はもっと怖いです。だからといって原作の方がいいかと聞かれると、個人的には映画版の方が好きです。
しかし、「ITがあんまり怖くなくてがっかり」という人には原作小説版をおすすめします。
原作小説版では、多くのシーンがもっと怖く、もっと猟奇的に描かれています。
あまり多くを語ると原作小説のネタバレになってしまうので、一つだけ例を出して話したいと思います。
それはルーザーズクラブが、ペニーワイズを退けた後『この事件を大人になって忘れないように、27年後(ペニーワイズが復活すると時期)にまた再会できるように。』と手のひらに誓いの印をつけるシーン。
誓いの印とは、ガラスの破片で手に傷をつけるという方法。(この時点でかなり猟奇的)
しかし、原作小説ではもっと違う方法で誓いを立てます。
それは、ルーザーズクラブ全員の童貞をべバリーで捨てること。
ルーザーズクラブ全員がべバリー(ルーザーズの紅一点)と性関係を持つことで、全員に固い絆と、忘れられない思い出を残そうと考えたのです。
ペニーワイズには、町から離れた人間に記憶を忘れさせるという能力があり、それだけのことをしないといけないほど、原作小説版では重く辛い事が起こっていきます。
他にもペニーワイズを封印する儀式や、ペニーワイズの怖がらせ方も原作小説はかなり猟奇的で怖いです。
しかし、だからといってそれをそのまま映画にしたらどうでしょう?カップルや家族、友達と観に行っていい気分になれるでしょうか?
制作陣はあえて『IT』のホラー要素を「お化け屋敷程度」でおさえて、もっと伝えなければならないテーマをクローズアップしたのです。
それにも関わらず『IT』のホラー要素だけを評価して「ITは全然怖くない★☆☆☆☆」とレビューするのは、手加減してくれた人を本気で煽るのと同じです。笑
最後に:スティーヴン・キングのカメオ出演について。
みなさん『IT/イットTHE END “それ”が見えたら、終わり。』で、スティーヴン・キングがカメオ出演していた事に気づいたでしょうか?
スティーヴン・キングが演じていた訳は、主人公ビルが思い出探しをしていて、立ち寄った中古ショップの店主役です。
小説家であるビルの小説に対して、物語は面白いが結末が悪いといっていました。
バッドエンドばかり書くビルの小説は、物語序盤から結末が悪いと周りの人間に言われていました。
これは完全にスティーヴン・キング自身の小説と重なります。
原作小説の『IT』も映画版とは違い、バッドエンドに近いです。
スティーヴンは自身の原作小説とは違う、映画版『シャイニング』が大嫌いですが、自らカメオ出演して皮肉を言っているあたり、映画版の『IT』はかなり気に入ってるようです。
『IT TheEND』では、序盤からあきらかにスティーヴン・キングをディスっているシーンがあったので『スティーヴン・キングは怒るんじゃないかな?』と心配していましたが損しました。笑
このようにスティーヴン・キング自身、辛く重い事を認めるほどの原作小説版『IT』。「映画版『IT』じゃ物足りなかった」という方におすすめします。
今回思った以上に長くなってしまったので、『ペニーワイズの正体』や『ペニーワイズより怖い、デリーにかけられた本当の呪い』等は、また記事にしたいと思うので、そちらもよろしくお願いします。
それでは次の記事で!