『ジュラシック・ワールド 新たなる支配者』観てきました。
筆者としては恐竜、モンスター、怪獣が大好きなので、令和の時代で新しい恐竜映画を観ることができて、最高に興奮しました。
しかし、気になるポイントがいくつかあったのも事実で、実際にSNSや評価サイトで感想を調べてみると、少なくない人がなにか違和感を感じていたり、“つまらない”と感じたようです。
特に映画の目玉恐竜であるギガノトサウルスについては賛否両論の様子…。
映画の残念なポジションは人それぞれだとは思いますが、個人的にもギガノトサウルスの扱いが引っかかりました。
そこで今回は『ジュラシック・ワールド 新たなる支配者』の“つまらない”ところを、映画のヒール役であるギガノトサウルスに焦点を当てて考察していこうとおもいます。
目次
ギガノトサウルスとは。ジョーカーを意識した悪役恐竜。
まずはじめに、ギガノトサウルスとは何なのかおさらいしていきましょう。
ギガノトサウルスとは、ティラノサウルスを超える大型の恐竜で史上“最大”“最凶”の恐竜……と発見当時は言われていましたが、実際はティラノサウルスと同程度の大きさかそれよりも小さいくらいで、体は細く、かむ力も弱い、ティラノサウルスと比べると“強さ”は比べ物にならない恐竜です。
いわゆる“実はティラノサウルスよりも強い恐竜がいた!!”というのは創作物の中だけのお話です。
ただ、生き物はその場所や時代によって進化するので、どちらが優れていると言い切ることはできないのと、体長が最大級の肉食恐竜なのは事実です。
『ジュラシックワールド 新たなる支配者』で登場したギガノトサウルスは、主人公一行を追い詰める悪役、シリーズ一作『ジュラシックパーク』でいうところのティラノサウルス、ヴェロキラプトル的な追跡者のポジションの恐竜です。
監督を含めた制作陣はギガノトサウルスを映画『ダークナイト』に登場する、バットマンの敵役“ジョーカー”を意識したと語っています。愛称は“ギガ”と呼ばれていたそうです。
フィギュアを見てもらうとわかりやすいですが、確かに悪役っぽい悪そうな顔体つきと、ジョーカーっぽい緑を基調としたピエロっぽい配色になっています。
住処である森が山火事になっても変わらない凶暴性と、目が合うもの全部を襲う凶悪性は魅力的です。
主人公一行を何度か追い詰め、映画ラストではティラノサウルス(レクシィ)とテリジノサウルスと怪獣バトルを繰り広げる活躍をみせました。
これを見て筆者は確かに興奮しました。しかし、何かが違うような…。
制作陣のギガノトサウルスのヒールっぷりを魅力的に見せようという気概は感じるし、実際ギガノトサウルスはジョーカーっぽいアウトローなかっこよさがありました。
それでも感じるこの虚しさのような、つまらないなと心のすみで思ってしまう理由を考えましょう。
人を食わないジョーズはつまらない。“かわいそう”にみえてしまうギガノトサウルス。
背中には鮫のような背びれ、ジョーカーのような体色、ティラノサウルスのような牙と体長。
まるで映画悪役のキメラのようなビジュアルのようなギガノトサウルスですが、映画を観る限りではそんなに怖く見えません。
映画のラストでテリジノサウルスの爪に串刺しにされたときは、興奮しましたが同時に「あぁ、かわいそう」とも思ってしまいました。なぜならギガノトサウルスは何も”実害”を出していないのです。
映画でバイオレンスなシーンがあればいいというわけではありませんが、ギガノトサウルスは主人公一行を何度か襲っても、襲い掛かるだけで主人公一行の一人も食べたり、かみついたり大怪我を負わせていません。(ライオンの檻に入ったら襲われるのは当たり前。)
『ジュラシックワールド 新たなる支配者』では、山を丸ごと研究施設にした”サンクチュアリ”という恐竜たちの新しい住処兼保護施設が登場しますが、サンクチュアリは物語終盤に山火事になります。
山火事になった原因は研究所の人間の悪意と失態によるもので、ギガノトサウルスはなにも関係がありません。
確かに、火が降る聖域で吼える恐竜という絵面は、まるで神話のようでカタストロフィも感じますが、冷静に考えるとギガノトサウルス被害者です。
山火事の原因に一枚かんでいれば、もっと悪役っぽかったんですが…。
怪獣映画になった『ジュラシックワールド』シリーズ。ギガノトサウルスとインドミナスレックスを比べて”○○”がつまらない。。
さて、ここで『ジュラシックワールド』一作目に登場した悪役インドミナスレックスと、ギガノトサウルスを比べてみましょう。
ちなみに『ジュラシックワールド』と『ジュラシックワールド新たなる支配者』の監督は同じです。『ジュラシックワールド 炎の王国』の興行成績が振るわなかったので交代になったそう。
そういわれると、映画のラストが悪役恐竜を二体の恐竜が強力して倒すというのもなんだか似ていますよね。
『ジュラシックワールド』の成功にはいろんな理由があると思いますが、一番の盛り上がりはやはり映画のラスト、ティラノサウルスVSインドミナスレックスの戦いです。
インドミナスレックスは恐竜とは名ばかりで、遺伝子操作によって作り出されたキメラ恐竜です。
ティラノサウルスの強靭な骨格にヴェロキラプトルの賢い頭脳、さらにステルスや鳴き真似など、いろんな生き物の能力を持ったまさに”怪獣”です。
この凶悪なインドミナスレックスを制御できなくなり”ジュラシックワールド”は崩壊、インドミナスレックスが暴れたおかげで多くの恐竜が逃げ出し、人でごったがえしていた園内は地獄絵図になりました。
最新の兵器を持った機動隊ですら歯が立たないインドミナスレックスに対して、主人公一行の切り札はなんとシリーズ一作目『ジュラシックパーク』に登場したティラノサウルス、通称”レクシィ”をぶつけることでした。
『ジュラシックパーク』では敵同士だったティラノサウルス、ヴェロキラプトル、人間の三者が協力して強敵に立ち向かうクライマックスには鳥肌が立ちました。
ジュラシックシリーズはもとから恐竜ドキュメントではなく、アクション映画
もはや怪獣映画ですが、ジュラシックシリーズはもとから恐竜ドキュメントではなく、アクション映画です。
みんながよく知っているレクシィですら、いろんな生き物のDNAを使って復元したティラノサウルスっぽい生物なのです。
『ジュラシックワールド』は『ジュラシックパーク』と比べ、怪獣映画色が強くなりましたが、「生物を創造し驕った人間に罰が当たり、創られた生物とはいえ見下さず紳士に向き合った主人公達には恐竜からちょっとした餞別がある。」という一作からのテーマはありました。
インドミナスレックスも人間の被害者で、ギガノトサウルスと同じく”かわいそう”な存在ですが、ギガノトサウルスト違い、人は食べるし、同じ恐竜でも好奇心で殺してしまう残虐性がありました。
ギガノトサウルスに対するかわいそうは、なにも悪いことはしていないのに他の恐竜に二対一でやられてかわいそう。
インドミナスレックスに対するかわいそうは、パークを破壊した最悪の恐竜だけど人間がちゃんとお世話をできなかったせいで殺されてかわいそう。
インドミナスレックスの散り様をみて、観客は自分たちも同じような失敗をしてはいけないという教訓と懺悔の気持ちを抱くのに対してギガノトサウルスの散り様をみて思うのはわずかな興奮と”かわいそう”という同情の気持ちだけなんです。
ギガノトサウルスはもっと人間に対する憎悪を剥き出しにして、悪逆の限りを尽くして、主人公一行の誰か食べていれば、この気持ちも少しは変わったのでしょうか…?
ギガノトサウルスを”敵役”にするべきではなかった。『ジュラシックワールド』つまらないのはギガノトサウルスのせいではない。
ここまで『ジュラシックワールド 新たなる支配者』のつまらない理由がまるでギガノトサウルスにあるような語り草でしたが、ギガノトサウルスが登場したシーンは、構図も、迫力も、アニマトロ二クスの出来も良かったです。
ただ安易な”敵役”にすべきではなかったと思います。そして更に言うならレクシィも昭和シリーズのゴジラみたいな”正義の味方キャラ”にしない方がよかったのではないかと思います。(敵の敵は味方感が薄い。)
やはり、物語のラストは大事で、強敵を倒して万々歳ならまだよかったですが、強さがちゃんと描写されていない微妙なキャラを倒して終わりだと、例え中盤まで面白くても、つまらなかったで終わってしまいます。
つまらない”定番ラスト”をぶっ壊せ!ギガとレクシィで施設破壊。
ラストはギガノトサウルスとティラノサウルスで施設をめちゃくちゃに破壊して終わりでも良かったのではないかと思います。東京を火の海に変えた『ゴジラ』のように、人間の施設も欲もエゴも全部破壊して終わりでも良かったと思います。
怒り狂った恐竜が街を破壊しつくして、少数派になった人間のほうが逆に”サンクチュアリ”を創ってその中でひっそりと恐竜におびえながらつつましく暮す。
このほうがVODオリジナルで派生作品を作ったり、次回作を作ったりできるのではないでしょうか。もう6作ぶんも人間は同じような過ちを繰り返していますからね。そろそろいつもと違う終わり方を観たかったです。
『ジュラシックワールド 炎の王国』はたしかにお話や中盤のキャラの掛け合いは面白くありませんでしたが、終わり方はシリーズのなかでは斬新で、あれはあれでおもしろいとおもいました。
バッドエンドにしないなら。ティラノサウルスの敵はギガノトサウルスではなく、真ティラノサウルスにすればよかったのでは?
さすがに上記の終わり方はバッドエンドすぎて大衆映画であるハリウッドではできないとして、それではギガノトサウルス以外をティラノサウルスの敵役にしたほうが良かったのではないかと思います。
キメラ恐竜はマンネリになりつつあったので、例えば”真ティラノサウルス”なんか良かったのではないでしょうか。
『ジュラシックワールド 新たなる支配者』では恐竜をよりリアルにつくる技術が発展していました。現存する生物や他恐竜に頼らず、単一の個体のDNAから恐竜を作ることができるようになっていました。
そのため劇中には羽毛恐竜や、映画トレーラーには羽毛の生えたティラノサウルスの姿もありました。近年ではあのティラノサウルスにも毛が生えていた説が有力になっています。
その毛の生えた”真ティラノサウルス”が『ジュラシックワールド 新たなる支配者』のボス敵役としてでたらより映画は盛り上がったのではないかと思います。
『ジュラシックパーク』はかつて、最新のCG技術、特撮技術、アニマトロ二クス技術で世界中に衝撃を与えた
『ジュラシックパーク』公開以前の人の中には、恐竜とはゴジラのようにしっぽを引きづって直立で歩いていると本気で思っている人もいましたが、『ジュラシックパーク』が公開されてからは、『ジュラシックパーク』の恐竜が世界の常識になったのです。
逆に『ジュラシックパーク』の恐竜がリアルすぎて”ティラノサウルスは車を追えるほどの速度で長く走れない”ことや”ヴェロキラプトルはもっと小さい”という事実を観客は信じられず、映画内のフィクションの恐竜のほうがみんなの”本物”になっています。
そんな社会の現象をジュラシックシリーズでは劇中内で皮肉のように語ります。バイオ技術でつくられた恐竜はどれも本物じゃないし、1億年前の恐竜のほんとの姿なんて誰もわからないと…。
しかし、『ジュラシックパーク』はそれだけ多くのひとに影響を与えたのも事実です。ジュラシックパークをみて恐竜や生物学者の道を目指した人もいるし、恐竜を好きになった人もいます。
そんなジュラシックパークシリーズの最終作で、羽毛の生えた誰も見たくない本当の姿”かもしれない”真ティラノサウルスを、創作の世界から生まれたティラノサウルスが爽快に倒してくれたらさぞ興奮したと思います。
…とここまで考えると”ギガノトサウルスはティラノサウルスより強いのは創作の中だけ”という恐竜ファンの中”だけ”のおやくそく的な要素を映画に取り入れた『ジュラシックワールド 新たなる支配者』はつまらなくなく、むしろ面白かったのでは?と思えてしまいます。
ただやっぱり、創作の中から生まれたティラノサウルスが、おなじく創作の中から生まれた”ティラノサウルスより強い”ギガノトサウルスを倒す展開は、創作世界の恐竜との完全な訣別のようで悲しいです。
『ジュラシックワールド 新たなる支配者』を観て感じたのどに魚の骨がつっかかったような感情の正体は”つまらない”ではなく”かなしい”だったのかもしれません。
最後までご覧いただきありがとうございました。