今回は、2021年4月14日、Netflixより配信された『ラブ&モンスターズ』をレビューしていこうと思います。
『ラブ&モンスターズ』
音楽も映像も最高。これは劇場で観たかった。もう頭の中「Stand By Me」がずっと流れてる。 #映画 pic.twitter.com/AE6bbAcTuP— アリスケ (@walking_planets) May 7, 2021
日本では公開されなかった映画&安直なタイトルからどことなくB級映画感がただよう本作ですが、視聴してみると意外におもしろいです。
意外と言っては失礼ですが、監督も脚本家も有名な方ではなく、タイトルもB級映画っぽい。さらにあらすじの説明も「ベタな週末もの」という感じです。
しかし、いざ観始めるとあっという間に最後までみてしまいます。ざっくりとした感想ですが、この映画、観客に最後まで観させる工夫がすごいのです。
目次
いい映画は冒頭から惹きつける。ベタなあらすじはあっさり説明。
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世界はある日突然モンスターに支配された。人類の95%が死亡。
生き残った人類は地下のシェルターでひっそりと生きていた。
主人公は、モンスターが街で暴れだしたその日から彼女と離れ離れ。
7年もの月日をかけ、ラジオを使うことで135キロ離れたシェルターに彼女がいることを知る。
彼女に再開するため、主人公はモンスターの溢れる地上を旅する。
ベタというか、週末ものにも設定に限界があり、観客を惹きつけるにはそこにプラスアルファの工夫が必要です。
特に冒頭は肝心です。つまらない映画は冒頭からつまらないとわかります。
特に「週末もの」という何度繰り返されているネタでは、なおさら冒頭から観客を惹きつけないといけません。
『ラブ&モンスターズ』の冒頭はとてもよかったです。冒頭を主人公やナレーターが語るというのはよくあります。
さらに、ニュース映像風に起こったことを説明するのもよくあります。
ただ、そのよくある冒頭に「絵本っぽさ」が足されています。
冒頭では人類がモンスターに圧倒されていったことが語られます。
それを主人公のちょっとふざけた語り口調と絵本風に語る事で、『ラブ&モンスターズ』という作品全体をどのように観ればいいかわかります。
絵本風にすることで、冒頭から重くならず、コメディチックに作品の概要を説明しています。
さらに主人公のジョエルは、絵が得意であり「冒頭のモンスターたちの絵はジョエルが描いたのでは?」と考えることができます。
主人公のジョエルは、彼女と離れ離れになる前は絵が下手でした。しかし、彼女からプレゼントされた色鉛筆で絵を練習し続けることで絵が上達していきます。
シェルターからでたあとも運動神経の無さから、めげそうになっても絵だけは描き続けました。
描く絵は、モンスターのものやモンスターが溢れたあとの世界の植物です。
そして物語のラストでは、新世界生存ガイド(初版)と新世界生存ガイド(第2版)を完成させています。
『ラブ&モンスターズ』は冒頭から物語の伏線をはりつつ、世界観もおもしろおかしく、わかりやすく説明しているのです。
観ていて楽しい。メンタル強すぎ主人公。
序盤から中盤まで主人公のジョエルは、周りから役立たずとして扱われており、モンスターを目の前にすると固まってしまうような、臆病でひ弱な青年として描かれます。
そこがコメディとして面白い部分ではありますが、観終わってよくよく考えてみれば、ジョエルはかなりメンタルが強いです。
そもそも、人食いの化け物が溢れた外の世界に一人で旅立つ勇気をもっており、ビビりではありますが、事前にモンスターの気配を察知したりと、危機察知能力は高いように感じます。
ジョエルは、モンスターが来たせいで彼女と離れ離れになってしまいます。運動神経が低くて、彼女もいないジョエルに、シェルター内での居場所はありませんでした。
初恋の彼女に出会うため、135キロもモンスターだらけの世界を旅して、ようやく出会えた彼女には別の男性が…。
これはグレてもしょうがない。
しかし、ジョエルは激昂することもなく、落ち込みはしますが決して元彼女を恨んだりはしません。
むしろ、彼女に確認もせずに旅に出た自分を責めます。
旅の道中でジョエルは、彼女に別の男性がいるかもしれない可能性にうすうす勘づいてはいました。
勘づいていたものの、だからといって簡単に受け入れることはできません。さすがのジョエルもちょっとだけ落ち込みます。
しかし、元々いたシェルターの仲間たちが自分のことを大切に思ってくれていたことを再確認し、早々に元彼女がいるシェルターをあとにすることを決意します。
コメディ映画というのもありますが、メンタル強すぎです。見習いたい。切り替えが早いというか、自分の感情をしっかりコントロールできています。
モンスターだらけの世界も悪いことばかりじゃない。
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終盤で「この世は終わってる」と言い放ち、自暴自棄になった悪人達と戦闘になります。
「この世は終わってる」というセリフは、言い回しが違えど、ジョエルもよく言うセリフでした。
しかし、ジョエルが悪人達と違うのは、この世が終わってるからといって前を向き続けたところです。
ジョエルの旅は、「元彼女には男ができていた」という結末をむかえますが、それでも旅に出てよかったことがありました。
もともと真っ直ぐ飛ばすことすらできなかったボウガンの腕前は上達し、外で生き抜く術や、外の世界の情報を手に入れることができました。
暗いシェルター生活も、彼女と別れることになったのもすべてモンスターのせいですが、だからといって自暴自棄にはならず、ジョエルはモンスターだらけの世界のいい面をみようとしたのです。
だからこそ、ジョエルのモンスターを記録した絵は、ただの落書きノートで終わるのではなく、新世界生存ガイドという、これからを生きていく人間に必要な物になりました。
物事の悪い面ばかり見るのではなく、良い面もちゃんと見ることが大切です。
劇中には「数回うまく失敗できたら、その先は大丈夫。」というセリフがでてきます。
名言風の言葉をいっておいて、内容が伴っていない映画は山ほどありますが、それらに比べ『ラブ&モンスターズ』は、しっかり主人公がそのセリフを使っても違和感なく仕上がっていました。
おわりに。日本で公開されなかったのは残念。スゴすぎるスタンド・バイ・ミーリスペクト。
『ラブ&モンスターズ』は「これは映画館で観たかった。」とおもわせてくれる作品でした。
物語もギャグセンスもいいですし、映像も安いモンスター映画によくあるCGの違和感がありません。
音楽もStand By Me ・Ben E Kingが流れた時は鳥肌が立ちました。単に曲が好きなだけかもしれませんが、、
『ラブ&モンスターズ』は「明るいミスト(モンスター映画)」だと例える人が多いようですが、自分はモンスター要素が詰まったスタンド・バイ・ミーだと思います。
監督もスタンド・バイ・ミーをリスペクトしてか、ちゃんと主人公がヒルに噛まれるシーンがあります。笑
このスタンド・バイ・ミーリスペクトの流れは、ほんとに観ていてすごいと思いました。
まず、このStand By Meという曲が流れたシーンの後にヒルに噛まれるシーンがあります。
スタンド・バイ・ミーにも登場人物達がヒルに噛まれる印象的なシーンがありましたね。
おそらくそのシーンのリスペクトかと思われます。
さらに面白いのが、Stand By Meを主人公は最後まで聞けないというところです。
Stand By Meをジョエル聞かせてくれるのは電池切れ寸前のオンボロロボットなのですが、ジョエルはそのロボットに想い入れがあるようで、彼女への想いを打ち明けます。
ロボットはジョエルの彼女への思いを聞いて、旅の成功を祈りつつ、旅の結果がどうなろうと旅をしたことが大事だと語ります。
Stand By Meの歌詞は、恋愛の歌とも友情の歌とも捉えることができます。「隣にいて欲しい」「君の側にいたい」「近くで生きていたい。」そういう歌です。
ロボットと話していた時、ジョエルは恋愛の歌として、Stand By Meを聴いていたでしょう。しかし、Stand By Meを最後まで聴くことはできませんでした。
ロボットは、演奏の最中に電池が切れてしまいます。不吉というかなんというか、歌詞の意味を知っているとブラックジョークにしか思えません。
事実ジョエルは彼女と再開しても、彼女と結ばれることはなく、旅が終わることはありませんでした。
しかし、新しい旅路についたジョエルの横には、1度は喧嘩別れをした、ボーイがいます。
『ラブ&モンスターズ』と『スタンド・バイ・ミー』は旅をするという点が同じですが、旅をする人数が違います。
スタンド・バイ・ミーは4人でラブ&モンスターズは1人です。
しかし、主人公のジョエルは道中、これから大切なパートナーになるボーイ(犬)と出会い旅をします。終末ものに犬は欠かせませんね。笑
ちなみに、『ラブ&モンスターズ』に登場するボーイ(犬)は、「オーストラリアン・ケルピー」という犬種です。
旅の道中で、ジョエルはヒルに噛まれたイライラとボーイが言うことを聞かなかったことで、ボーイと喧嘩別れしてしまいます。
しかし、ボーイは最終局面の一番おいしいところでジョエルを助けるために帰ってきます。
スタンド・バイ・ミーのリスペクトをただのブラックジョークで終わらせない監督の粋な演出に鳥肌が立ちました。
演出も映像も音楽も素晴らしく、久しぶりに劇場で観たかったという映画に出会えました。みなさんも機会があったらぜひみてください。