こんにちは!アリスケです。
今回は映画『NOPE/ノープ』が更に面白くなるような考察、解説をしていこうと思います。
映画『NOPE/ノープ』を一言で表すなら“雲の中のジョーズ”になります。
筆者は映画を観る前、『NOPE/ノープ』のPVを観て映画の内容を『七夕の国』や『サイレン』のような『未知との遭遇』のダークサイドを描いた作品だと思っていました。
エイリアンと奇妙な関係を持ってしまった田舎町の住人達。その出会いが最悪の奇跡を起こす。
そんなお話だと思っていましたが、監督の想いは「空のジョーズ」を描くことでした。
『NOPE/ノープ』とはSF、コズミックホラーではなく人間と人知を超えた生物との決死の戦いを描いた作品だったのです。
ストーリーの構成も伏線も綺麗に作られていますが、映画の内容が想像と違ったせいか、わかりにくく感じてしまった観客も少なくないようです。
そこで今回は映画『NOPE/ノープ』の伏線やオマージュについて考察、解説していこうと思います。まずは映画のおさらいからしていきましょう。
目次
空のジョーズを描く【NOPE/ノープ】あらすじ。目を合わせてはいけないルール。
美しいパンフレットだ…。 #ノープ #NOPE #映画 pic.twitter.com/a0mTRWQKle
— アリスケ (@walking_planets) September 11, 2022
田舎町の上空に現れた謎の飛行物体。それは後に円盤型の生物だったことがわかり、映画の主人公の黒人兄弟は円盤のスクープ写真を撮ることで一攫千金を狙います。
人食いの捕食者と人間の死闘を描いた『NOPE/ノープ』はまさに空のジョーズです。
そして『NOPE/ノープ』は『ジョーズ』だけでなく、『ジュラシックパーク/ジュラシックワールド』などの往年の怪獣・モンスター映画の「人知を超えた存在を軽んじた人間が痛い目に合う」という王道も守っています。
「わたしはあなたに汚物をかけ、あなたを辱め、あなたを見世物にする」という映画の冒頭ナホム書からの引用の言葉も、この映画が制御不能で理解不能“NOPE”を描いた作品だとわかります。
『NOPE/ノープ』には一つのルールが存在します。それは“動物と目を合わせてはいけない”ということです。馬、チンパンジー、円盤生物。どれも目を合わせることがトリガーとなって野生の恐ろしい一面を見せます。
人間は彼らのような本来野生にいる生物を手懐けているような気になっているだけなのかもしれません。
そして物語では、黒人兄弟がそこが動物と人間の違いだと言わんばかりにアイコンタクトと目を合わせるジェスチャーでコミュニケーションをとっています。
この“動物と目を合わせてはいけない”というルールは映画の伏線にもかかわっていきます。
映画に点在する最悪の奇跡と注目すべき“2つの奇跡”。
『NOPE/ノープ』は作中に起きる奇跡を追うことで物語の理解を深めることができます。その奇跡はグッドミラクルなのかバッドミラクルなのか考えながら観るのもまたおもしろいかもしれません。
映画の中には多くの奇跡・偶然がありますが、特に2つの奇跡に注目すると面白い映画の伏線が見えてきます。
父親の死。5セント硬貨が落ちてきたバッドミラクル。
映画の序盤、主人公OJの父親が空から落ちてきた5セント硬貨が頭にあたってしまい、命を落としてしまいます。この事故をきっかけにOJはうだつの上がらない日々を過ごすことになります。
空から落ちてきた5セント硬貨の正体は、円盤生物のいわば“食いカス”だったわけですが、父親の死は飛行機の落下した破片によるものだと片付けられてしまいました。
OJは「親父の死には何かあるはずだ」と必死になっていました。
実際、何かあったから良かったですが、これが何もなかったらいつまでも現実逃避で仕事が手につかななく、妹にも迷惑かけっぱなしだったことでしょう。
また、父親が空を見上げていた時、OJはつばのついた帽子をかぶっていたこと、足元の落下物に注意がいっていたことも、OJが難を逃れることができた奇跡だといえるでしょう。
共演者の死。チンパンジーに見逃されたグッドミラクル。
『NOPE/ノープ』にはチンパンジーが人を襲うシーンがあります。映画を見た観客の中にはトラウマになってしまった、劇中で一番怖かったという人も多いようです。
内容は『ゴーディ 家に帰る』という実際のチンパンジーをつかったコメディ番組中に、チンパンジーが突如演者達を襲ったというものです。
現実にもチンパンジーが人を襲った事件もあり、監督も参考にしているのかかなりリアルな表現が多いので苦手な人にはこたえる描写だったでしょう。(円盤生物よりチンパンジーの方が怖いという人も,,,。)
物語のキーパーソンであるジュープはチンパンジーが演者を襲っている時、机の下に隠れてなぜかひとりでに直立している靴を眺めていました。そのおかげで、チンパンジーの気がある程度収まるまで気が付かれずに済みました。
さらに、気が付かれた後もテーブルクロスが上手く重なることでジュープはチンパンジーと目を合わせないで済みました。
この奇跡がジュープを生かすことになりましたが、この奇跡をきっかけにジュープは自分が“特別な存在である”という過剰な自信に囚われ続けることになります。
ジュープは、子供相手にチンパンジーの体毛とエイリアンの頭がくっついたような着ぐるみを着せており、「チンパンジーに僕だけ心を通わせることができた。エイリアンも手懐けることができるはず。」というジュープの精神面がよくわかります。
チンパンジーの事件があったからこそ、逆に怖いもの知らずになってしまったのかも知れません。
結果、円盤は友好的なエイリアンどころか、無慈悲で問答無用な円盤型生物だったのでジュープは食われることになってしまいます。下手に無傷でチンパンジー事件から生き残ったことはバッドミラクルだったのかもしれません…。
OJとジュープの対比。チンパンジーに希望をみたのか絶望をみたのか。
チンパンジーのせいでサルは映画出禁
映画は悪役の視点に立つことでより物語の本質や伏線について理解を深めることができると思います。
『NOPE/ノープ』において悪役ポジションはジュープでしょう。生物を見世物にしようとしたおごりが描かれていました。(悪役でもありやられ役でもある。)
ジュープは主人公のOJをショーに誘っていたり、落ち目のOJ相手に馬の買取もしていたので悪気があるようなキャラクターではありませんが、OJとジュープは対照的に描かれる部分がいくつかありました。
OJが事件のきっかけになった5セント硬貨を悪運の象徴として、戒めのために持っていたのに対してジュープは直立していた靴を自らの幸運の証、象徴として持っていました。
他にも雇う雇われるの違いもありましたが、動物に対する意識の違いが一番対照的です。ジュープはチンパンジーの凄惨な事件をまるで伝説のように語りますが、OJは本物のサルがハリウッド出禁になった最悪の出来事として記憶していました。
さらに、ジュープは円盤生物をはじめ、自分なら生物は手懐けられるとおごっていたのに対して、OJは自分が昔から飼っている馬でさえも体調を気遣い、目を決して合わせないという尊敬と畏怖の念をもって接していました。
二人の会話も今見ると会話が弾んでいるようで、まったくかみ合っていないことがわかります。相手が話の通じるETのような存在ではないとわかった時点で、ジュープは“星との遭遇”を諦めるべきだったのかもしれませんね。
黒人ジョッキーとチンパンジーに隠された監督の想いとは。チンパンジー=アジア人!?作中のオマージュ、メタファーについて。
筆者が思うに、この映画は上手く丁寧に今の時代に合うようにアップデートされた空のジョーズと感じました。
映画からは史上初の映画である、たった2秒の黒人ジョッキーにはこんな物語があったのではないか?という監督の遊び心と熱い想いを感じました。
ただ、『NOPE/ノープ』の中には人種に対する思想のメタファーが隠されているとの意見もあるようです。
チンパンジー=アジア人を表しているのではないか?
UFO=白人の黒人に対する搾取を表しているのではないか?
というような意見もあります。
確かにジョーダン・ピール監督の過去作『ゲットアウト』や『アス』はそういった思想と風刺を感じるホラー映画でした。
今作『NOPE/ノープ』もジャンルは違えど、作品の端々にはそういった経済摩擦や人種問題のメタファーを感じる部分が確かにありました。
ただ個人的には、せっかくモンスター映画としての出来がいいのでそちらにちゃんと目を向けて楽しむことがいいような気もします。
最期までご覧いただきありがとうございました。