金曜ロードショーの常連『ルパン三世 カリオストロの城』。
ファンのみならず多くの著名人や映画監督に影響を与えてきた作品です。
『ルパン三世 カリオストロの城』は宮崎駿氏が初めて監督した作品としても有名であり、テレビ版のルパン三世は観たことがなくても、「カリオストロの城だけは観たことある」という人も多いのではないでしょうか?
『ルパン三世 カリオストロの城』には名言や名シーンも多数存在しています。
有名どころで言えば銭形警部が「あなたの心です」というシーンもありますが、個人的には「カーチェイス」のシーンが1番好きです。
緻密な作画に流れるようなアクション、テンポのいい会話が詰まっていて何度観てもあきません。
宮崎ルパンのいいところが凝縮されていると思います。(ピカレスクな初期ルパンも好きですが)
あのスティーブン・スピルバーグ監督も絶賛したという「カーチェイス」のシーンについて書いていこうと思います。
嵐の前の静けさ。平和から突然始まるカーチェイス。
国営カジノにまで出回る伝説の偽札『ゴート札』。その謎を暴くためルパンと次元はカリオストロの城を目指していた。
道中愛車がパンクしてしまい、それを直している最中、車で逃げる美少女とそれを追う怪しげな男達を目撃。
美少女クラリスを助けるため、壮絶なカーチェイスが始まる。
「なぜカリオストロ城から逃げてきたと思われるクラリスが、カリオストロ城に向かっていると思われるルパン達の進行方向とは逆から来たのか」
と疑問に思うかもしれませんが、これはクラリスが婚礼衣装の仮縫いの隙を見計らって脱走してきたからだそうです。
ジブリヒロイン達に引けを取らないほど、クラリスはおしとやかさと大胆さをあわせもっていますね。
車がパンクしてしまい、どちらが直すかという時、ツーカーの2人が無言でジャンケンするのもいいですが(ツーカーどころか無言)、そのあとのシーンがまた秀逸です。(拳銃使いの次元が田舎チョキ出すのもいい。)
流れる雲に囀る小鳥、野に咲く花といったように、「平和」を体現したかのような風景が流れます。
ルパン自身も思わず「平和だねぇ」と言ってしまうほど。
しかし、そんな平和は数秒ともたずカーチェイスと変わるのです。
ここで注目なのはルパン自らカーチェイスに加わるところ。
車に当て逃げされたとか、逃げてるのが身内とかではなく、なんとなく面白そうだからカーチェイスにのぞみます。(この時ルパンはクラリスとのことを忘れている。)
そうじゃなきゃ物語が進まないとか、あきらかに事件性を感じるからとか、いろんな理由が考えられますが、ルパンの信条があらわれています。
「怖いのは死ぬ事じゃなくて、退屈なこと」
上記のセリフはルパン自身のキャラクター像を体現するようなセリフです。
宮崎駿監督が考えるのは裕福な暮らしに退屈して、スリルを求め続けるギラギラした目つきの男こそ『ルパン三世』なのです。
「平和だねぇ」といいつつも、どこかアンニュイな表情のルパンから一転し、めちゃくちゃ楽しそうに車を出すルパンは生き生きとしています。
「カリオストロの城」のルパンは宮崎駿監督の中では、歳をとって経験を積んできた落ち着いた余裕のあるルパンとされていますが、その余裕はフランス貴族のような余裕ではく、いつまでもスリルを楽しむ大人の男の余裕です。
ちなみに上記のセリフは、クラリスのように「私を仲間にして欲しい」といった少女に対してルパンが断るやり取りの中で言ったもの。
2000年以降のルパン映画での劇中のルパンは、宮崎ルパンの影響を大いに受けた性格をしています。
10~20代の人達のルパンといえば宮崎ルパンであり、ファンでないかぎり、原作や初期のルパンを観るとちょっと違和感を感じる人も多いと思います。
実は嘘!?「今度のはただの弾じゃねえぞ」「スティーブン・スピルバーグが絶賛した」
次元が劇中で使用したのはコンバットマグナムもM19ではなくM27を使用しています。
しかし、カーチェイスのシーンでは「今度のはただの弾じゃねぇぞ」と言いながらボトルネックケースの徹甲弾を装填。
その後、伯爵の部下たちの車のタイヤを狙撃していましたが、実際には使用出来ません。
単なる設定ミスか?それともほんとにただの弾じゃなく次元特製の徹甲弾だったのかもしれないと考えると面白いですよね。
あのスティーブン・スピルバーグ映画監督は、作中冒頭のカーチェイスを「世界最高のカーチェイス」と絶賛したといいますが、
実際にスピルバーグ監督がこの映画を視聴したというソースはなく、映画雑誌、マンガ・DVDに発言が引用されるなど、噂が一人歩きしている節があります。
さらに、賞賛していたとしても「カリオストロの城」そのものをしていたという情報のほうが多く、カーチェイス自体をどう思っていたか真偽は不明です。
しかし、スピルバーグ以外の国内外問わず多くと監督や作家に影響を与えてきたことは事実であり、カーチェイスのシーンを賞賛していたと言われても違和感のないことは事実なのです。
余談。歳をとったルパン。溶けたワルサーP38。
宮崎駿監督は「善人のルパン」「活劇」を描くために、一通りの経験を積んできた歳をとった後のルパンを描いています。
初期ルパンや赤ジャケットルパンよりも、人生経験を積んできたルパンであり、往年のファンからすると違和感があるのは当然だと宮崎監督は語っています。
16歳のクラリスがルパンを「おじさま」と呼んでおり、ルパンを演じた山田康雄氏も「おじさんルパン」を想定して演じていたと語っています。
ルパンと言えばワルサーP38を愛用しているイメージがありますが、「カリオストロの城」では活躍せずに終わります。
『TV第1シリーズ』のエンディング・テーマでも歌われるほどの、ルパンの愛用拳銃であるワルサーP38ですが、
「カリオストロの城」ではポケットから取り出した直後、銃口がポケットに引っかかってしまい、警備装置のレーザーで溶かされてしまいます。
回想シーンでは発砲シーンがありますが、それ以外の活躍はありません。
これは時計塔内部での伯爵との戦いを映えさせるための演出ともとれます。
しかし、宮崎駿監督は登場人物を本当に歳をとってく存在として描いており、実際に宮崎監督は「となりのトトロ」のサツキやメイはもうおばあちゃんだと語ったことがあります。(宮崎監督の心の中では)
ルパンも同様に宮崎駿監督の中では歳をとっていくものであり、生きている存在なのです。
「カリオストロの城」序盤の名シーンであるカーチェイスで「どっちにつく?」「女ー!!」「だろうな」という若々しさ全開のセリフを放つルパン(と次元)も、ワルサーP38を引き抜くのにポケットに引っ掛けてしまうほど老いているのです。
宮崎駿監督が描くキャラクターには人格があり、成長していきます。「カリオストロの城」がルパンシリーズの最終回に見えてしまうのもそのためです。
一見寂しいようにもみえますが、ルパン自身はいつまでもスリルを求め続ける行き方をしようとしているのです。
やはり、月日が流れてなお、スリルを求め続けようとするルパン三世のかっこよさが、カリオストロの城のカーチェイスには詰まっていると思います。
宮崎駿監督が描く武器やマシーンも好きですが、キャラクターへの思いが両方詰まって描かれているカリオストロの城のカーチェイス。ぜひみなさんももう一度注目して観てみてください。