※公式『映画ドラえもん のび太の新恐竜』予告編【2020年8月7日(金) 公開】Youtubeより
今回は2020年8月7日に公開された「映画ドラえもん のび太の新恐竜」について、レビューしていきたいと思います。
連載開始50周年記念作で、令和初の映画ドラえもん作品である『のび太の新恐竜』ですが、新型コロナウィルスの影響で当初は2020年3月6日公開だったものが20208月7日に公開になりました。
ドラえもん映画と言えば、春に観るものというイメージがあり、夏に観るのがなかなか新鮮でした。
私はドラえもん映画を、毎年欠かさず映画館に観に行っている訳ではなく、「観れる時は観に行く」というスタンスです。
しかし、今回はドラえもんのお話の中でも屈指の名作、『のび太の恐竜』をかなりリスペクトしている作品とあって、公開前から観に行こうと心に決めていました。
映画館はしっかり感染症対策が行われており、心置き無くドラえもん映画を楽しむことができました。
作画、音楽どれもクオリティが高く、ファミリー映画としての出来はものすごく良かったです。
ただ、すべてが良かったかと言われれば、正直モヤモヤするシーンも多々ありました。
そこで、今回は『のび太の新恐竜』について良かった点、気になった点をレビューしていきたいと思います。
まだ観ようかどうか迷っているという方もいると思います。詳細なネタバレは必要最低限に避けますので、最後まで読んでいただけると嬉しいです。
目次
良かった点:ただのリスペクトだけで終わらない物語。
『のび太の新恐竜』は『のび太の恐竜2006』をリスペクトしているだけあって、前半のあらすじはかなりにています。(というかほぼ同じ)
スネ夫やジャイアンに、恐竜の化石 自慢をされたのび太が、ヤッケになって恐竜の卵の化石をタイムふろしきを使って孵化させる。
→のび太は、一生懸命生まれてきた恐竜を育て、恐竜との間に絆が生まれていくものの、現代で恐竜を育てるには限界が来る。
→生まれてきた恐竜の、もともと生息していた時代、地域、仲間を探すための旅に出る。
ここまでが序盤、中盤にかけての流れになりますが、多少細部が変わっているものの、ほぼ『のび太の恐竜2006』と同じ流れです。
変わっている部分として、のび太に対するジャイアンの煽り文句が、「もし恐竜を見つけられなかったら鼻からスパゲティを食べろ」から「目でピーナッツを噛め」に変わっています。
令和になって、のび太へのいじめも進化したのかと思う方がいるかもしれません。
しかし、このセリフはF先生が手がけた短編漫画版ドラえもんの、『オオカミ一家』というお話に出てくるセリフです。
『オオカミ一家』も今はもう絶滅してしまった生物『ニホンオオカミ』を題材にしたお話で、絶滅してしまった恐竜を題材にした『のび太の新恐竜』とは、どこか通じるものがあります。
そして、同じようなあらすじも中盤までで、終盤からは『のび太の恐竜2006』とは全く別のストーリーになっていきます。
『のび太の恐竜2006』が、恐竜ハンターからピー助を守りながら旅をしましたが、『のび太の新恐竜』では恐竜ハンターは登場しません。
あくまで「のび太と恐竜の成長」を軸にお話が進んでいきます。
『のび太の恐竜2006』は、完全にのび太が恐竜(ピー助)を守る側で、「のび太の子離れ」「ピー助の親離れ」として描かれました。
しかし、『のび太の新恐竜』では、のび太は「生まれてきた恐竜と共に成長していく物語」として描かれています。
『のび太の新恐竜』では、のび太はキューとミューという2匹の恐竜を育てることになります。
ミューは体格も大きく、物覚えも早いですが、一方キューは間抜けで物覚えも悪いということで、どちらに感情移入させたいか、めちゃくちゃわかりやすい様になっています。
ここら辺はファミリー映画なので仕方が無いですが、『のび太の恐竜2006』ではピー助の成長だけだったものが、「のび太と恐竜が共に成長する」という物語になっていて、ただ過去作の作画をブラッシュアップするだけで終わらなかったのは、観ていて面白いと思いました。
良かった点:ドラえもん映画の名に恥じない作画。
ドラえもんの映画は、普段のTVアニメよりも格段に作画のクオリティが上がります。ただでさえTVアニメ版も作画崩壊などない高クオリティな上、劇場版では作画枚数が増え、キャラクター達がヌルヌル動きます。
『のび太の新恐竜』では、「実際にのび太が恐竜を育て、一緒に成長していく」という、成長や絆、親離れ子離れがテーマとして描かれています。
『のび太の新恐竜』では、ドラえもん、のび太に続いて「のび太が育てる恐竜」も主人公であり、その恐竜達がとても表情豊かに描かれています。
言葉の意味がまだわからない小さなお子さんでも、「何が起こっているか?」「キャラクターがどんな気持ちか?」察することができます。
のび太が育ての親になる2匹の恐竜「キュー」と「ミュー」、そして仲間になる恐竜達は、人間の言葉を喋ることはありませんが、表情や細かい仕草が丁寧に描かれています。
逆にのび太達と意思疎通ができない恐竜達は、のび太達と同じ2Dで描かれず、3DCDで描かれます。
それによって、現代には存在しない太古の生物としてのおどろおどろしい感じが出ていました。
良かった点:タイムパトロールが登場しても終わらない物語。長年のファンの疑問への公式回答。※ネタバレあり
劇場版に限らず、短編漫画、TVアニメのドラえもんで王道ストーリーなのが、「旅先で悪さしている敵役を、のび太達がこらしめ、タイムパトロールが連行する。」というものです。
同じように、タイムマシンを使って過去に遡る物語『のび太の恐竜』『のび太の日本誕生』でも、「のび太達がその時代で悪さしている敵役をこらしめ、タイムパトロールが連行する」という展開です。
『ドラえもん映画』といえば、タイムパトロールが出てきたらもう終わりが近い、一安心というイメージがついています。
しかし、『のび太の新恐竜』ではタイムパトロールが出てきても、物語がすぐに終わるということはありません。
タイムパトロールは、歴史が私利私欲によって改変されないようにする組織であり、恐竜が絶滅するという歴史を、キューとミュー可愛さに変えようとするのび太と対立することになります。
これまでタイムパトロールに時間犯罪者と誤解されることはあっても、対立することだけはなかったドラえもんとのび太ですが、『のび太の新恐竜』ではまさかの対立ということで、先が気になるような物語の構成になっています。
そもそもドラえもんは、のび太の悲惨な運命を変えるという超個人的な理由でタイムマシンを使っています。
漫画や劇場版でも頻繁に過去に戻っては、のび太達と、好き勝手やっていますが、なぜかドラえもんだけはタイムパトロールから許されています。
これに関してはファンの間で多くの議論が交わされており、
『ドラえもんはタイムパトロールから許可証が出てる説』
『タイムパトロールが取り締まるのは大きな歴史改変のみ説』
『ドラえもん達はタイムマシンを使うことで世界を何度か救ってるから大目にみられてる説』
などがあります。
これらの説に対して『のび太の新恐竜』では公式から間接的に答えが出されました。下記ネタバレ注意
映画終盤で恐竜が絶滅する歴史を、のび太が改変しようとします。
これに対して、タイムパトロールはついにのび太一行を逮捕します。(ドラえもん史上初めて)
しかし、タイムパトロールのチェック・カード(歴史への影響力が高いほど強く光る)をのび太にかざすと、強く発光し、のび太の行動は歴史への影響力高いことが判明します。
これによりタイムパトロールはのび太達を逮捕する事を止め、静観することを選択しました。
タイムパトロールは、ドラえもんやのび太が、正しい歴史に繋がるという事実が判明しました。
つまり「のび太やドラえもん達は歴史改変をする時間犯罪者ではないか?」という長年の疑問に対して、
「のび太やドラえもん達に干渉された歴史こそ正しい歴史になる。
だから、タイムパトロールには見逃されている」という公式からの回答が出たということになります。
ただ、これに関しては引っかかった人も多かったかと思います。
『ドラえもんの道具で何が欲しいか?』という話題に次いで、ファンの間で話の種になっていた『ドラえもんの歴史改変について』。
この答えが、公式から出てしまったというのは、少し寂しい気持ちになります。
そもそもタイムパトロールがドラえもんを逮捕しない理由にタイムパラドックスがあります。
しかし、個人的にはファミリー映画として観れば、そんなに気にならないとは思います。どうしても気になるという方は、映画『メッセージ』を観ることをおすすめします。
気になった点:モヤモヤするファンサービス。ピー助の登場は必要だったのか?
ドラえもん映画はファミリー映画です。子どもも大人も楽しめる映画です。
『のび太の新恐竜』はお子さんを楽しませるだけでなく、一緒に来た大人もしっかり楽しませようという工夫があります。
それは良い事ではあるんですが、やりすぎてしまうのも考え物かもしれません。
大人へのサービスシーンとして、『のび太の新恐竜』では、『のび太の恐竜』で登場した、ピー助が登場します。
ピー助が『のび太の新恐竜』で登場することは、予告編の時から公開されていました。(あきらかにピー助っぽいシルエットが登場していた。)
ただこのシーンがちょっとモヤモヤしてしまいました。
『ピー助』が『のび太の新恐竜』に登場するということには、個人的にもすごく期待していて、実際に観ているときも正直泣きそうになりました。
ですが、個人的にイマイチ感動できない箇所がありました。
ピンチになったのび太を、ピー助が助けるシーン
これだけでもファンサービスとして充分です。
しかし、このシーンでピー助とのび太の回想シーンが入ることになります。
何も考えずに観れば感動できなくもありませんが、このシーンがあることで、『のび太は1度恐竜を育てたことがある』ということになってしまいます。
上記にも書きましたが、『のび太の新恐竜』は序盤、中盤にかけて『のび太の恐竜』と同じ流れです。
のび太は恐竜を孵化させ、生き物を育てる難しさを噛みしめながら、それでも一所懸命生まれてきた恐竜を育てます。
『のび太の恐竜』ではそれでもいいかもしれませんが、『のび太の新恐竜』ではそうはいきませんよね。
なぜならのび太は、すでに恐竜育成の経験者なのです。
恐竜の種類や数が違うというのはありますが、それでも序盤中盤の流れに違和感を感じてしまいます。
これが人気キャラクターのゲスト出演など、子供向けのサービスシーンならともかく、
ファミリー映画として、大人向けサービスシーンとしての演出でこれはちょっとやりすぎてしまったのかなと思います。
「ピー助かもしれない恐竜orピー助と同じ種類のフタバスズキリュウが助けてくれる。」という展開でも全然感動できたと思うので、ここだけはちょっぴり残念でした。
最後に:新しいひみつ道具も『友チョコ』も微妙だった。
何度も言うように映画の全体的なクオリティはとても高く、アニメ映画としての出来はものすごく良い物になっています。
ドラえもん映画はどの作品も一定以上のクオリティが約束されており、観ていて安定感があります。
ただ個人的には、気になるというほどのものではありませんが、新しいひみつ道具が微妙だったのは残念でした。
個人的にドラえもん映画に求めているものは、「普段とは段違いの作画の良さ」「新しいひみつ道具」「泣きどころ」です。
作画は二重丸で、泣き所に関してもピー助のところは微妙だったものの、肝心のキューとのび太の別れのくだりは良かったので、全体的には良作です。
しかし、序盤から中盤に関して活躍したひみつ道具『友チョコ』が微妙でした。
まだ観ていないという方のために説明すると、「自分が食べた板チョコの欠片を食べた生き物と仲良くなれる。」というものです。
ぶっちゃけ『桃太郎印のきびだんご』の板チョコ版なのです。
一応『桃太郎印のきびだんご』と差別化はされており、一緒にチョコを食べた生き物の身体的特徴を獲得出来るのですが、特に獲得した能力を活かすシーンはなく、ほぼコスプレどまりになっています。
『のび太の日本誕生』でも、原始人風のコスプレ(中身はハイテク)をするシーンなどがあり、物語特有の雰囲気作りなのかもしれませんが、せっかくのリスペクト作品なら、『桃太郎印のきびだんご』を使っても良かったのかなと思いました。
なんだか愚痴を言って終わりになってしまいますが、『のび太の新恐竜』自体は何度も言うように全体的なクオリティが高く、観ても後悔はしないと思います。
コロナ関連のニュースで気分が落ち込んでいる方には、ぜひおすすめの映画です。
それでは次の記事で!