【ファイアパンチ考察】元ネタはナウシカ?藤本タツキの宮崎駿リスペクト。アグニの能力を考察&解説。についての記事をご覧いただきありがとうございます。
この記事では『ファイアパンチ』の考察として、『アグニ』の炎の能力についてや「アグニの炎が地面に燃え移らない理由」
そして、藤本タツキ先生からひしひしと感じる宮崎駿監督へのリスペクトや影響を受けているところなどを考察・解説していきます。
『チェンソーマン』でさらに世間の注目を集めるようになった藤本タツキ先生のセンスが光る過去作『ファイアパンチ』。
アグニの炎が地面に燃え移らない理由を考えると藤本タツキ先生の好きな世界観とオマージュの流儀が見えてきます。
動画でも解説しています。
藤本タツキ先生といえば自他ともに認める映画好きです。チェンソーマンやファイアパンチ、短編や読み切りもいろんな映画のオマージュやパロディが出てきます。
目次
ファイアパンチとは。炎に覆われた男の旅。
作品名 | ファイアパンチ |
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作者 | 藤本タツキ |
出版社 | 集英社 |
掲載サイト | 少年ジャンプ+ |
巻数 | 全8巻 |
話数 | 全83話 |
主人公 | アグニ |
『ファイアパンチ』とは藤本タツキにより、ジャンププラスにて連載されていた漫画です。主人公の名前はアグニ、世界では“祝福者”とういう手から火を出したり人の心を呼んだりすることができる特殊能力を持った人間が少数いますが、アグニは再生能力を持っています。
『ファイアパンチ』の世界は氷の魔女によって氷と雪に覆われた世界となっており、そんな常に飢餓と死があふれる世界で、アグニは自分の再生能力を使って自分の肉を村人に食べさせることで故郷を飢えから守っていました。
しかし、ある日突然村は“人食い村”として隣国の炎を操る祝福者に焼き払われてしまいます。
アグニの村を焼いたのはただの炎ではなく祝福者の“対象を消し炭にするまで消えない炎”でした。村はあっという間に消し炭になり、アグニの最愛の妹も恩人である村人達も燃え尽きてしまいました。
物語の序盤は、永遠に燃え続ける煉獄の戦士になった主人公アグニの復讐劇ですが、話が進むごとに物語のジャンルが変わっていくのが特徴的です。
バトル漫画と思って読み始めた読者の中には、かなり重めでシリアスな展開や設定、急なSF要素で作品が支離滅裂な内容だと感じ離れていってしまう人も少なくありません。
しかし、それは作者が意図してやっていることであり、ラストが近くなるほど魅力に変わっていくので昔読むのをやめてしまったという人は、ぜひこれをきっかけに読み直してもらえるとうれしいです。
作中内で唯一”ジブリ”を観たキャラクター「トガタ」
作中では“映画”というものが大切なキーワードとして出てきます。作中で、アグニの命を救う事となったトガタは大の映画好きという設定です。
トガタはアグニと同様に再生の祝福を持っており、老いるのが人より数百倍遅いです。そのため300年以上生きていながら、容姿端麗な女性の姿で登場します。
世界が凍り付く前の旧世代の世界を知っており、特に映画鑑賞が趣味だったようです。そんな彼女はアグニを主人公に自分で映画を撮ろうとして、彼女は自分の好きな映画のパロディやオマージュを映画に取り入れようとしています。
中でもジブリはお気に入りだったのか、度々セリフや名言を引用している姿を確認できます。
しかし、『ファイアパンチ』はセリフなどのパロディよりももっと深いところでジブリないし宮崎駿作品『風の谷のナウシカ』につながっています。
『ファイアパンチ』の大国VS小規模な村という構図。
『ファイアパンチ』にはベヘムドルグ王国という大国が登場します。大国といっても滅びかけの世界の中では大国というだけで、インフラやエネルギーは祝福者任せ、労働は近隣の集落からさらってきた奴隷任せというボロボロの国です。
そもそもの物語の発端は、ベヘムドルグ王国の斥兵であるドマがアグニの村を一方的に資源を奪う形で立ち寄った事からでした。
この「滅びかけた世界の大国と小規模の村」「無礼な大国の出征」など、ナウシカの物語と重なる部分があります。
特に貧しいけど自立して牧歌的な生活をしているアグニの村と、豊かに見えるけど実際は旧世紀の遺物に頼ってるだけのベヘムドルグ王国の対比が、藤本タツキ流の風の谷とトルメキアの対比のようで面白いです。
アグニの炎が地面に燃え移らない理由。地球はとっくに枯れている。
アグニは自分を焼き続けている消えない炎を、相手に移す事による自爆が主な戦闘スタイルです。
アグニに燃え移された炎は水にぬらしても凍らせても消えることはなく、人間なら黒焦げになって炭になるまで消えず、ビルならコンクリートが溶けてボロボロに崩れて可燃性の物質が燃え続けるまで炎は消えません。
同じ再生の祝福を持っているキャラクターでも、自分が永遠に焼かれ続ける痛みと精神的な苦痛で再生を止めて死んでしまいます。
まさに、アグニの驚異的な再生能力と精神力があるから扱える最凶の炎です。ただ、そんな炎も作中でおかしな描写があります。アグニが立つ地面は燃えないのです。
そりゃそうだろと思うかもしれません、現に作中でもアグニ信者が土が燃えないのが、アグニが神である証拠の様に語るセリフが滑稽に見えるように演出されていました。
しかし、実際の土は燃えます。水分を含んでいようが腐葉土でも泥炭でもなかろうが、コンクリートをも燃やせるアグニの炎であれば燃やしてしまえるはずです。アグニの炎は水の中であろうが雪に埋もれようが真空にいようが燃えるという設定です。
それなのに、なぜアグニの炎は地面、もっと言えば地球を燃やし尽くさないのか?
それはあの世界の地球にもう燃やせるものなんて、炭素系生物くらいしか残っていないのです。
『ファイアパンチ』の世界の大地は『風の谷のナウシカ』の大地と同じ!?
『ファイアパンチ』の世界は氷に覆われています。それは氷の魔女によって世界が凍らされているという設定でしたが、実は地球が氷河期に入っているだけという真相が明かされます。
旧世代の人類は消えない炎も、死なない体も全て生体技術として体に備わっており、氷河期に入る地球を見捨ててとっくに太陽系を離れていました。(天の川銀河にももういないかも)
祝福者と呼ばれる人達は、旧世代の人類全てが使えた身体機能の一部が遺伝しているだけの出来損ないだったのです。
重要なのは、そんな文明レベルの人類がとっくに地球を見捨てているという部分です。
そこまで文明レベルを上げるのにとっくに地球のあらゆるエネルギー源を使い尽くしてしまったのでしょう。作中では「地球はとっくに枯れている」ことが終盤差し掛かって明かされます。
燃やせるもんはもう燃やし尽くした後だから、もう地面は燃えないのです。
作中では農業をしようとしても土に栄養がないのか、特別な場所でしか農業ができないという描写があります。
宮崎駿監督の『風の谷のナウシカ』では、人類に攻撃的な生態系をもつ腐海の木々や、蟲におびえて人間がほぞ細と暮している様子が描かれており、特に土を大切にするような描写が目立ちます。
しかし、みている人は一度は思ったことがあるでしょう「冒頭のユパが歩いている砂漠の砂は綺麗そうだしそれを農業とかに使えばいいのに」と。
たしかに砂漠の砂でも、火を通したり灰や腐葉土を混ぜ込めば作物や木々を育てる土壌ができます。が…それは本当にあれが砂であればの話です。
『風の谷のナウシカ』の設定資料を読み取ると、あれは粉々に砕けたセラミック片だということがわかります。
だれでも想像しやすいように言うとあれは細かい錆みたいなものです。
そりゃどれだけ灰と混ぜても腐葉土と混ぜても作物なんか育てられないし、錆や屑鉄から製鉄できないのと同じように資源にもなりません。まさに不毛の大地です。
おそらく『ファイアパンチ』の世界の地面もほとんどが旧世代の燃えカスで覆われているのではないでしょうか。
ユダの樹の元ネタは『シュナの旅』or『火の鳥』?ナウシカ以外の元ネタ。
『風の谷のナウシカ』のもととなった名作『シュナの旅』も、少なからず『ファイアパンチ』に影響を与えていると思います。
『シュナの旅』のストーリーも既に旧世代の人類が滅んだあとのお話で、奴隷という存在が出てくるのもそうですが、個人的に一番気になったとは“ユダの樹”についてです。
『ファイアパンチ』の地球は大地がとっくに朽ちているどうしようもない世界ですが、ユダの樹の周りだけは穀物が採れるようになります。
この表現は、ラジオアイソトープ農園をオマージュして描いているでしょう。アイソトープ農園は『火の鳥』や『シュナの旅』に登場しました。(※火の鳥の作者は宮崎駿ではなく手塚治虫です。)
樹の周りだけ作物が育つというのはあきらかに選択繁殖で、放射能によって作物になんらかの突然変異を起こさせ、朽ちた土壌でも育つようにしているのだと考えられます。
さらに、ユダの樹は地球が氷河期から脱するほど暖めています。これは明らかに核融合でもしない限り、補えないエネルギー量です。
話が脱線しましたが、『シュナの旅』、『風の谷のナウシカ』と『ファイアパンチ』は人類衰退後の未来を描いているだけでなく、その黄昏の時代からの脱出方法も似ています。
しかし、似ているだけで『ファイアパンチ』にはしっかり藤本タツキ先生流の終末が描かれており、比べて読むとどの作品も倍以上面白さが増します。
まとめ:『ファイアパンチ』は『『風の谷のナウシカ』『シュナの旅』に負けない面白さ。
上記にも書きましたが、『ファイアパンチ』の元ネタがほんとに『風の谷のナウシカ』『シュナの旅』だったとしても、どれかの面白味が減るということはありません。
以上、まとめると
- 藤本タツキ先生の宮崎駿監督へのリスペクトや影響を受けているところなどを考察
- 「ファイアパンチ」はセリフなどの小ネタがある。
- アグニの炎が地面に燃え移らない理由は地面が燃えカスだから。
- 地面が不毛の地の元ネタは『風の谷のナウシカ』から。
- アグニの村とベヘムドルグ王国の関係は、風の谷とトルメキアの関係に似ている。
- ユダの樹は『シュナの旅』のアイソトープ農場に似ている。
- 単に似ているだけでなく「ファイアパンチ」にはしっかり藤本タツキ先生流の終末が描かれている。
あまり好きじゃないという人も多いかもしれませんが、個人的には作者の影響を受けたものや、感銘を受けた作品を探ってどこが影響を受けているのか考えながら作品を楽しむのが好きです。
特に、作者が好きだと公言していない物ほど”あーじゃないかこーじゃないか”と考えるのが好きです。
チェンソーマンも短編もそうですが、藤本タツキ先生は自分の影響を受けたものをまっすぐに描いているのが魅力的です。ある作品なんか『銀河ヒッチハイクガイド』のネタがそのまま入っていてビビりました。
個人的にはその年代の作品が大好きなので、いろんなところに怒られない程度にこれからも作品をつくっていってほしいですね。
最後まで読んでいただきありがとうございました。