
今回は漫画『藤本タツキ短編集17-21』の中の一つ『恋は盲目』についてレビューとちょっとした考察&解説していきます。
今話題沸騰中の『チェンソーマン』の作者“藤本タツキ”先生の短編の一つである『恋は盲目』。
初期作品故に絵が荒っぽいですが、その分藤本タツキ先生特有のノリと勢いと、映画パロディが詰まった作品です。
『藤本タツキ短編集「17-21」』
10/4月発売記念✨
カウントダウン企画③‼️収録作品から
『恋は盲目』
をご紹介。
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生徒会長はどうしても今日
ユリに気持ちを伝えなければならない。
どんなことがあろうとも今日…!
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作品の紹介は明日がラスト❗️ pic.twitter.com/40uQKX8JO1— チェンソーマン【公式】 (@CHAINSAWMAN_PR) October 2, 2021
SNSや漫画評価サイトをみると高評価は少なく、個人的にも恋愛コメディっぽい作品は好みではありませんが、好きな映画のパロディに加えて藤本タツキ先生の趣向もわかるものなので、かなり楽しんで読むことができました。
元ネタなんかも考察してみるので、まだ未読の方も本記事を機に読んでみようと思っていただけると幸いです。




目次
『恋は盲目』とは?高校生×ラブコメ×宇宙人!?
作品名 | 恋は盲目 |
---|---|
作者 | 藤本タツキ |
出版社 | 集英社 |
収録 | 藤本タツキ短編集17-21 |
主人公 | 伊吹 |
『恋は盲目』とは、『藤本タツキ短編集17-21』に収録された短編漫画の内の一つです。
あらすじは、主人公の高校3年生で卒業を明日に控えた高校生“伊吹”が、今まで支えてくれた後輩の生徒会役員“ユリ”に下校の際に告白を試みるも、様々な邪魔が入ってしまう…。というもの。
『ファイアパンチ』や『チェンソーマン』から藤本タツキ先生の作品を読み始めたという人からすると、人間同士の純粋なラブコメは新鮮に感じるのではないでしょうか。
読み切り短編なのでストーリーは短いですが、主人公の告白の邪魔され具合が「自分の葛藤→天気→先生→強盗→宇宙人」と段階的に上がっていく様は、上質なコントを観ているようで面白いです。




藤本タツキ初期作品ということもあって、絵柄が少々荒っぽいですが、『藤本タツキ短編集17-21』で読んでいると、絵柄をすぐに慣れてしまえるので正直気になりません。
編集部から藤本タツキ先生が受けたとある忠告。
藤本タツキ先生は『恋は盲目』についてとある忠告を受けたそうです。
それは「16Pで出来る事を31Pでやっている。もっとページ数を短くするべきだ。」です。
このアドバイスにどんな真意があったのかはわかりません。もしかしたら短くした分もっといろんなことを描けるのではないか?という意味かもしれないし、文面通りの意味かもしれない…。
これを受けて藤本タツキ先生は、確かに自分の作品は16Pで描けるものを、31Pでやってきたのかもしれないと思ったそうです。
個人的には31Pバージョンも読んでみたいですが、こういった編集者さんたちとのブラッシュアップがあったからこそ、『ファイアパンチ』のようなコメディとシリアスが混沌としたものが描けるのかなとも思います。
※結末ネタバレ:『恋は盲目』ラスト。宇宙人も応援しちゃう告白。
上記でも書きましたが『恋は盲目』の面白さは段階的に上がっていく告白の難易度です。
告白をしようとする度に邪魔が入るというコントはたまに見かけますが、漫画ならではの「宇宙人が邪魔しにくる」という展開が面白いです。
『庭には二羽ニワトリがいた。』で描かれた残虐な宇宙人とは違い、陽気な宇宙人が地球を破壊しにやってきます。
宇宙人がやってくる前には強盗が二人を襲いますが、強盗も宇宙人に度肝をぬかし、宇宙人に地球を破壊するといわれても、めげずに伊吹はユリに告白しました。
結局のところ最大の敵は、徹頭徹尾自分の臆病な心だったわけですが、勇気をだした伊吹に強盗も宇宙人も根負けして立ち去っていきました。怒涛の展開と綺麗なオチがあって読後感がすっきりした気持ちになります。
筆者は心がひねくれているのでただのラブコメは記憶に残らないですが、藤本タツキ先生が描く、主人公なのに愚直で真面目という意外性もあって最期まで楽しみながら読めました。何なら二人の今後も気になるくらいでした。
藤本タツキ×銀河ヒッチハイク・ガイド。SF界の金字塔。
藤本タツキ先生って銀河ヒッチハイク・ガイドも観てたんだ。
— アリスケ (@walking_planets) February 7, 2023
物語のクライマックスには宇宙人が地球を破壊しにやってきますが、その理由は「地球の軌道上にでっかい高速道路をつくるから」でした。
これは、おそらく映画『銀河ヒッチハイク・ガイド』のパロディだと思います。
銀河ヒッチハイク・ガイドとは、イギリスの脚本家ダグラス・アダムスが書いたSFシリーズです。
SF風刺、社会風刺、下ネタがふんだんに盛り込まれた“おばかSF映画(誉め言葉)”ですが、後の多くのクリエイターに影響を与えることになった伝説の映画です。
アメリカンジョーク…というよりガンブリティッシュ・ジョークが主体の映画で、日本語吹き替えだとわかりにくい表現もありますが、近年ではあまりみられない「政治、宗教、人種、あらゆる思想」をコミカルに馬鹿にしまくっているので、未視聴の方はぜひご覧になっていただきたい作品です。
あらすじは、突如地球に宇宙船団が飛来し、「銀河ハイウェイ建設工事の立ち退き期限が過ぎたので、工事を開始する」と言って、宇宙人が人類の存在を無視して地球を破壊してしまい、残された主人公が銀河を旅して地球破壊を撤回させるというもの。
当時、クリエイターを含む観客は「宇宙人が敵意なく地球を破壊する(しかも物語始まってすぐあっさり)」という展開にめちゃくちゃ驚いたそうです。
おばかSF映画であるにも関わらず、シリアスSF映画の“まさかオチ”にあってもよさそうなインパクトの強い展開に観客はしびれたわけですが、藤本タツキ先生もその一人だったのかもしれません。
まとめ:『恋は盲目』タイトルや読み切り短編ということで読まないのはもったいない。
今回は『藤本タツキ短編集17-21』に収録されている『恋は盲目』についてレビューと元ネタについてちょっとした考察&解説をしました。
以上まとめると
- 漫画「藤本タツキ短編集17-21」の中の一つ「恋は盲目」を紹介。
- 初期作品故に絵が荒っぽいが、その中にも藤本タツキ先生特有のノリと勢いがある。
- 「恋は盲目」は主人公の告白の邪魔され具合が段階的に上がっていく上質なコントを観ている気分になる。
- 愚直で好青年な感じが、どの藤本タツキ主人公とも違って面白い。
- 藤本タツキ先生は「恋は盲目」にて編集部に16Pで出来る事を31Pでやっているというアドバイスをもらったそう。
- 漫画ならではの「宇宙人が邪魔しにくる」というコントでは表現が難しい展開が面白い。
- 「地球の軌道上にでっかい高速道路をつくるから」という文言は映画「銀河ヒッチハイク・ガイド」のパロディ。
藤本タツキ先生は、自身に影響を与えた出来事や映画・小説を、自分の作品に落とし込む作家性があり、短編を読んでいると後の作品も格段に面白くなるのでお勧めです。
最後までお読みいただきありがとうございました。