※映画「この世界の片隅に」さらにいくつものサウンドトラック
現在(2020/04/12)Amazonプライムビデオにて、映画『この世界の片隅に』が公開中です。日本アカデミー賞最優秀アニメーション作品賞に選ばれ、海外からも注目を集めています。
続編である『この世界のさらにいくつもの片隅に』は、本家アカデミー賞を狙えるほどの出来になっています。
「主人公が健気で泣ける」「戦争当時の生活がリアルで凄い」というような感想で終わってしまうのは少しもったいない気がします。
もちろん映画の見方は人それぞれで良いのですが、魅力はもっとたくさんあります。
そこで、当ブログでは『この世界の片隅に』の魅力である主人公「すず」についてと、戦争当時の描写のどこが「凄い」のか2つの記事にわけて書いていこうと思います。
今回は主人公すずに注目して書いていきます。
注目ポイント1・戦争映画なのにほんわかした主人公の性格。
『この世界の片隅に』を取り上げている映画雑誌やネットニュースでは、面白いポイントとして「大戦当時のリアルな日常を描いている。」というのをよく見かけます。
中でも、「すず(主人公)の健気に生きる姿が泣ける・癒される」というようなレビューは多いです。
第二次世界大戦を舞台にした作品では、戦争におもむく「兵隊」や、兵器をつくる「技術者」に焦点を当てた作品が多いです。
しかし、『この世界の片隅に』では、兵士の帰りを待つ「家族の生活」を描いています。
戦争当時の一般市民の生活が、「衣・食・住」全てにおいてリアルです。
配給権や防空壕など、言葉を聞いたことがあってもアニメとなって動くことで、より実感することができます。
空襲が日常的にある世界で、それでも笑顔を浮かべて健気に生きる主人公すずの姿に、ほんわかとした空気を感じます。
主人公すずのCVを、女優の能年玲奈さんが務めていることから『朝ドラ』のような雰囲気を感じることが出来ます。
すずは、おおらかでのんびり屋の性格です。
しかし、ただ単に大雑把でのほほんとした性格ではありません。
機転が利き、戦争によって貧困になっていく嫁ぎ先の家を、しっかりと支えていく存在になっていきます。
どこか抜けた性格のすずは、初めは嫁ぎ先の家に受け入れて貰えませんが、明るく前向きに振る舞う姿勢で徐々に受け入れられていきます。
それだけでも十分面白い物語ですが、面白いのは、すずがなぜこのような性格になったのか描かれているところです。
なぜすずの性格が、このようになってしまったのか?
それは、幼少期を観察すれば分かります。
すずの家族は優しい両親と妹、粗暴な兄がいました。
粗暴な兄は、日常的にすずへの暴力があったことがわかります。(原作だともっとわかりやすいです)
すずの妄想癖やぼーっとしたところは、辛い現実から目を背けるための物だと考えられるのです。
現実でも家庭内暴力を受けた子どもが、同年代の子どもよりも反応や学習能力が劣ってしまうことがあります。
先人の知恵を学んだり、咄嗟の機転で窮地を脱したり、彼女自身どちらかと言えば頭が良い描かれ方をしています。
しかし、あえてぼーっとした人間として生きることで、理不尽な暴力を肯定してしまう生き方をしてきたおかげで、本当にぼーっとした人間になってしまいました。
まるで、家庭内暴力やいじめに苦しむ子供が、暴力を振るわれているのは自分じゃないと現実逃避することで、二重人格になってしまうように、
すずも抜けた性格を演じる事で、病的なまでに周囲の状況に鈍感な性格になってしまったのです。
すずは絵が上手く、芸術的な感性を持っていることから、「のんびり屋なのは天才気質だから」という意見もあります。
しかし、物語が進んで重要な事件を乗り越える度に、性格は少しづつ変わっていく様子を見る限り、ある程度は生まれつきかもしれませんが、やはり後天性のものだったとわかります。
ほんわかした性格の過去には、少し暗い過去があったことがわかります。
しかし、その性格は嫁ぎ先で上手く噛み合っているので、結果オーライと言えるかも知れません。
☆注目ポイント2・すずの成長。過去に囚われていたすず。
すずが、最初に恋心を寄せた男は水原哲という近所に住む幼なじみです。
水原哲は口数が少なく、粗暴な性格です。
女性がDV男から離れられない構造に似ていて、すずは暴力的な兄に似た(似てるだけ)性格の男を好きになります。
すずと水原哲はお互いに恋心を抱いていたようですが、すずは北条周作の元に嫁いでいったので結果的に2人は結ばれませんでした。
そんなすずが、北条周作をちゃんと好きになっていく様子が、丁寧に描かれているのも『この世界の片隅に』の魅力です。
水原哲と再開しても、北条周作を好きと言えるようになる成長が、『戦争』というものに負けないほど深いものになっています。
例えば、すずが水原哲への未練を断つ様子です。
水原哲がすずと再会するために尋ねて来た際、すずは周作さんの思いを尊重するために、水原哲のことを、二人きりの時でさえ「水原さん」と呼びます。
しかし、第二次世界大戦が終戦して、戦死してしまったであろう水原哲のことを思い出す時は「哲さん」と心の中で呼びます。
このことから、ただ浮ついた感情の後暗さから水原哲と決別したのではなく、水原哲の『身を引いく決意』を尊重した上で決別したことがわかります。
まとめ・すずに注目してみるだけでも面白い。
映画は色んな見方ができますが、『この世界の片隅に』では主人公すずに注目してみるだけでもかなりおもしろいです。
さらに能年玲奈さんの素朴な演技が、役にドハマリしています。
ただ「ほんわかしたキャラ」というのは簡単かも知れませんが、「とぼけたようで、実はぼーっとしたふりをしている」という難しいキャラクターを存分に演じきっています。
日常の声と、終戦時などの感情のたかぶった時の声の演じ分けが素晴らしいです。
『この世界の片隅に』という映画は『すず』というキャラクターを知るだけでも価値がある作品だと言えるでしょう。
今回は『この世界の片隅に』について、特に主人公すずに着目して書きましたが、次回は「どこがリアルで凄い描写なのか」について書いていこうと思います。
日本全体が頑張らなければならない今、『この世界の片隅に』は多くの人の心に刺さる映画だと思います。
まだ観ていないという方は是非ご覧になってみてはいかがでしょうか?
それでは次の記事で!