引用:Amazon.co.jpより
2020年4月8日現在、新型コロナウイルスが世界的に話題となっています。WHOは「コロナはパンデミックだと言える」と発表しました。
今回は、とある漫画について紹介したいと思います。
それは、パンデミックをリアルかつ斬新に描いた漫画、『流血鬼』です。
『流血鬼』のあらすじ。吸血鬼>人間
『流血鬼』は、あのドラえもんでおなじみの、藤子・F・不二雄先生の1話完結の短編作品です。
バルカン諸国から発生した新型のウイルス「マチスン・ウイルス」が、ヨーロッパ、アメリカと次々と感染を拡大させていった。
日本に住む主人公は、不安を募らせるものの、周りの友達や大人は特に気とめなかった。
しかし、事態は悪化していき感染は拡大。親戚や上司など、身近な人物が感染してやっと事態の深刻さに気づいていった。
ウィルスはとうとう主人公が住む町にも広がり、主人公の両親は感染。町の人もほとんどが感染しており、主人公は親友とともに子供の頃に遊んでいた洞窟に身を隠しながら暮らすことになる。
ある日、物資調達のために外に出た際に親友は吸血鬼に捕まってしまう。
傷心の中洞窟帰ると、そこには吸血鬼になってしまったガールフレンドがいた。
吸血鬼になっているとはいえ、ガールフレンドを殺したくない主人公は、追い払おうとするが、ガールフレンドから衝撃的な話を聞くことになる。
ウィルスにかかった人間は、たしかに死んで生き返ったように見えるが、実際はただ心拍数や体温が急激に下がるだけで、それはすぐに回復し新人類に生まれ変わるのだと。
ほぼ死なない新人類には争いはなく、新人類は旧人類よりもはるかに優れており、全良な人間を殺そうとする、旧人類こそ流血鬼だと言い放つ。
主人公は抗おうとしたものの、ガールフレンドを傷つけることが出来ない主人公はついに噛まれてしまう。
主人公が目を覚ますとそこは病院で、自分が殺そうとした医者に看病されていた。
主人公は体質が変化し、価値観も変化した。ガールフレンドに感謝を伝え、夜の明るさと美しさに気づくのだった。
外国から広まったウィルスには、イマイチ危機感がなかったり、ウィルスに効くアイテム(十字架やニンニク)が品切れになったりと、リアルな日本のパンデミックが描かれています。
感染が徐々に徐々に広がっていき、身近になっていく描写は、「これ映画なんじゃないか?」と思うくらい引き込まれます。
タイトル回収はどことなく寄生獣を連想し、人間より感染者の方が多い逆転現象は『アイ・アム・レジェンド』を連想します。
それもそのはずで、原案はリチャード・マシスンの小説『アイ・アム・レジェンド』だそうです。
パンデミックを肯定してしまう。ハッピーエンドと言えるのか?
感染者といえば、知性が著しく低下するイメージですが、『流血鬼』はそうではありません。文明を存続させ、主人公達を捜索する際に犬を使っています。
動物にも感染するかどうかは、劇中で明らかにはされていませんが、感染しないのなら現存する動物とのコミニュケーションもとれ、友愛の精神もあるということです。
ほぼ死ぬことはなく、怒りにも疎い。そんな新人類になった主人公は、はたしてハッピーエンドだと言えるのでしょうか?
素直にハッピーエンドだと思えない理由がある気がします。
インフルエンザや新型ウイルスと違い、感染しても命の危険性はなく、むしろある程度の外傷を受けても、すぐに回復できるほどの治癒能力を得られることができます。
思考が暴力的になるわけでもなく、コミニュケーションが取れなくなるわけでもありません。
たしかに新人類の方が、旧人類より優れているような気がしてしまいます。
だからといって『新人類>旧人類』と決めつけて、旧人類の生き方を否定しても良いわけではありません。
侵略者が技術や文明が遅れているからと言って、原住民の文化や生き方を否定して良いわけではないのです。
そこには、対話することが必要だと思います。『技術や文明の発展を望むのか、今まで通りの生き方を望むのか』
どちらを選ぼうと、共存していくことこそ優れた人類と言えるのではないでしょうか?
ガールフレンドは、吸血鬼になるのは嫌だと言う主人公に対して、力ずくで新人類に変えました。
主人公は、あのままの暮らしではいずれ死んでいただろうし、運良く死なずとも新人類と比べ、大きく生活水準が低くなっていったことでしょう。
結果的には吸血鬼となり、新人類の仲間入りをした方が良かったかもしれません。
ただ、それを強制したからこそハッピーエンドと見れないのではないでしょうか?
ただ単に、藤子・F・不二雄先生による価値観の相対化に対する皮肉のメッセージとも受け取れますが、生物としてのの優劣を勝手に決め、価値観を強制てしまうことの怖さもしっかりと伝わってきます。
パンデミックの王道的な描いた上での、斬新な終わり方は、さすが藤子・F・不二雄先生だと思います。
短編集はKindle版もありますので、読んでない方、久しぶりに読み返したくなった方は、自粛期間中の娯楽におすすめです。