SUNRISE BEYOND×BANDAI SPIRITSによって制作された『境界戦機』がついに公開。サンライズ×バンダイといっても元は同じなので、コラボとはニュアンスが違います。
久々のロボットアニメに期待と、「リアルロボットアニメ」というファンの目が肥えたジャンルで今作はやっていけるのかという不安の中、今作はどんな結末を迎えるのか楽しみです。
ただ、上記にも書いたように「サンライズ」「バンダイ」「リアルロボット」というジャンルは、ライバルがかなり強いです。
「はじめて観るロボットアニメが境界戦機。」という方はともかく、同じくサンライズ、バンダイ系のロボットアニメを観てきた方からの評価は厳しそうです。
そこで今回は、現在公開中の第1話~第4話までのレビューと、「リアルロボット目線」で個人的に気になった部分について語っていこうと思います。
冒頭ナレーションに不安。ガンダムと比べて。
21世紀半ば日本は終わった。
経済政策の失敗や少子高齢化など、いろいろな問題が積み重なって日本は破綻寸前まで追い詰められた。
そこに世界中の大国や連合国が介入、経済援助、医療支援治安維持の名の下、多数の人員が派遣され、じわじわと勢力範囲を広げていく中で、ついに武力衝突が起こる。
後に境界戦と呼ばれるこの戦いで、各国は人形特殊機動兵器アメインを投入。
戦術特化型AIを搭載した無人機アメインが戦場の主役になり日本各地で戦火を散らした。
こうして日本は事実上分割統治され、日本人は支配された。これが西暦2061年の日本の現状だ。
境界戦機第①話より
微妙にリアルな世界観の説明半分に加えて、物語の鍵となるロボットの説明半分の冒頭ナレーションから、物語は始まっていきます。
要約すると、日本の国力が弱まったところで、他国が日本の取り合いをはじめ、戦車や戦闘機の代わりにロボットで戦って日本を守るというお話です。
ちょっと悲観気味と思いますが、現実の日本でも問題になっていることを題材にし、不安を煽ることで目を離させなくする冒頭だと思います。
ただ、少し残念なのはロボットの説明をもっとして欲しかったと思います。
世界観に関してはひとまず「そういうもの」としておいといて、せっかくロボットの話を出すなら、もっと「なぜ戦闘機や戦車ではないのか?」 など説明があっても良かったのではないかと思います。
例として『機動戦士ガンダム』第1話冒頭ナレーションを出してみます。
人類が増えすぎた人口を宇宙に移民させるようになってすでに半世紀が過ぎていた。
地球のまわりの巨大な人口都市は人類の第二の故郷となり、人々はそこで子を産み、育て、そして死んでいった。
宇宙世紀0079。地球に最も遠い宇宙都市サイド3は、ジオン公国を名乗り、地球連邦政府に独立戦争を挑んできた。
この1ヶ月余りの戦いでジオン公国と連邦軍は,総人口の半分を死に至らしめた。人々は,自らの行為に恐怖した。
戦争は膠着状態に入り、8ヶ月余りが過ぎた。
『境界戦機』では「無人機アメインが戦場の主役になり~」とありますが、なぜロボットが戦場の主役になったのか疑問が浮かんでしまい、あまり世界に入り込めません。
ロボットの説明をしないならしないで、先ほどのガンダムの冒頭のように、いつの時代、人々はどんな暮らしをしていて、何が理由で戦争がおこったのか知りたかったです。
さらに「後に境界戦と呼ばれるこの戦いで、各国は人形特殊機動兵器アメインを投入。戦術特化型AIを搭載した無人機アメインが戦場の主役になり~」
という部分も気になります。
ここで「境界戦」という、ガンダムに出てくる「一年戦争」のような、戦争用語が登場します。
あくまで「一年戦争」は、続編で設定された名称であり、ここで「境界戦」などと言ってしまうと、もう戦争が終わるのが前提で物語が進んでしまいます。
もちろんアニメなので、視聴者側は終わること前提で観ています。
しかし、せっかく「戦争」というジャンルを扱うなら“憎しみ合う泥沼感”を際立たせるためにも、戦争が終わることを連想させるような言葉は、少なくとも冒頭には使わない方がいいと思いました。
そして、一番知りたかったこととしては、戦車や戦闘機よりもロボットが優れているのかというところです。
戦術特化AIがめちゃくちゃ優秀なのか、戦車や戦闘機が使えない理由があるのか。
それらの理由は、後々物語で語られていくのでしょうか。
私としては、世界観や戦争の説明が欲しかったのと、この世界でロボットがどんな立ち位置のものなのか解説があったらもっと入り込みやすかったと思いました。
1話~4話の気になったシーンや設定。
ロボットの作画の安定感や声優さんの演技はすごく良かったです。
ロボットのデザインの好みは人それぞれになるとは思いますが、個人的にはそこまで悪くないと思います。
しかし、物語にちょっとツッコミどころが多いかなと思いました。
前提として、アニメやSF作品で“それってありえるの?”という、とんでもない設定やロボットがでてくるのは当たり前です。
そのため、世界観やロボットもそれが物語内で実在すること自体は受け入れられます。
では、その“とんでも設定”や“とんでもないロボット”がある世界で、人々はどんな生活をしているのか?どんな事件が起こるのか?が重要だと思います。
ロボットが存在する理由や物理法則の無理を、視聴者に鵜呑みにしてもらう。
その代わりに、世界観の構築や登場人物の心理描写、ロボット以外の物理法則の矛盾などを徹底的に無くしていくことで、アニメはおもしろくなっていくとおもいます。
しかし、残念ながら『境界戦機』には、ちょっと気になるシーンが多かったのかなとおもいます。
ちょっとしたシーンでも矛盾はなければないほどロボットという特大の矛盾を視聴者は飲み込めるのです。
1話〜4話を観て気になったシーンはいくつかありますが、主に気になったところを書いていきます。
生体認証技術があるのに、肝心のロボットの倉庫のセキュリティがガバガバ
主人公が職務質問を受けるシーンで、手の指紋や毛細血管を読み取られることで、本人確認をされていました。
しかし、レジスタンスの大事なロボットが保管されている基地倉庫のセキュリティがパスワードだけ?なんと打ち込み式になっていました。
パスワード認証はともかく、生体認証機能が一般化している世界で、ロボットの倉庫だけパスワードシステムなのはあり得るのかな?と思ってしまいました。
パスワードが一般人には解けない厳重なものならともかく、一般人である主人公が、暗号解読機械を使って自分で解いたと語っていました。
“主人公は機械に強い”ということを、視聴者にアピールしたかったのかもしれませんが、それなら生体認証機能の描写をなくすか、主人公は施設を破壊して侵入したとかにしても良かったのではないかと思います。
マニュピレーターで殴っていいの?
武器を持ってない主人公ロボットが、敵ロボットを殴るシーンがありますが、この部分が『リアルロボット』として許容できない部分でした。
ロボットにとってマニュピレーターはエンジンの次に大事です。
マニュピレーターが故障したら武器も持てないし、精密な作業もできません。
人型である意味が無くなってしまいます。
いくら頑丈なロボットとはいえ、可動部分には限界があります。
油圧式なのか電動なのか、もっと違う技術で動いているのかわかりませんが、スーパーロボットアニメならともかく、リアルロボット路線でいくのなら、そういうマニアが気にする部分をしっかり描写して欲しかったです。
例えば、主人公は戦いの素人なので、敵をマニュピレーターで殴ろうとしてしまい、相棒の戦術AIに怒られる。とかならもっと熱くなったとおもいます。
レジスタンスがキャンプまでの道筋を見せていいの?
主人公は、ピンチを日本の自治権復活を目指すレジスタンスに助けられ、レジスタンスのキャンプ地まで連れていかれます。
ホイホイとついて行ってしまう主人公も緊張感がありませんが、目隠しも何もなしでキャンプまで一般人を連れていくレジスタンスにも心配してしまいます。
もうちょっと位置バレに気を使っている描写が欲しかったです。
母性を感じさせる役の死亡があまり悲しくない。
キャンプ地で主人公は、自分を気にかけてくれる女性に出会います。
親のいない主人公に母性を感じさせてくれる重要なキャラクターですが、こういうキャラクターは主人公のやる気を出させるために死ぬと相場は決まっています。
死んでしまうのは、物語の演出上しかたないとして、それは最終回前後だったり、物語の中盤に出てきた強い敵を倒すためだったりしますが、境界戦機では、なんと登場から2話目でした。
ちょっと登場から早すぎるかなと思います。
主人公役の佐藤元さんの力演で、悲しい雰囲気はありますが、視聴者側は全く感情移入できません。
主人公が心を惹かれているという描写も少く、大切な人を失ったという喪失感を全くかんじません。
話のテンポや話数的に、登場から2話目に死んでしまうのはしょうがないにしても、話数を重ねたり、もっと丁寧に主人公と女性の関係を描いてもいいかな?と思いました。
今後に期待。どこまで世界観を説明するのか?
少し批判が多めになってしまいましたが、個人的には期待できる作品だと思います。
ロボットの戦闘シーンはかっこいいカットも多いし、起動シーンのカメラワークは、『新世紀エヴァンゲリオン』のオープニングの初号機を連想させ、かなりかっこよかったです。
主人公と相棒AIの掛け合いもテンポがいいし、ロボットに乗った時の、主人公の高揚感の表現はとても素晴らしいです。
ただ、ところどころに引っかかる部分があり、イマイチ世界観に没入できないのも事実です。『境界戦機』という世界観に悪い意味で謎が多いです。
例えば、戦いの理由です。
主人公はレジスタンスから勧誘を受け、戦う意味を考えていきます。
レジスタンスのキャンプには日本人が故に理不尽な目にあってきた人達が多く存在し、主人公の葛藤が描かれます。
これは良しとして、ここで問題なのは、「なぜここまで日本を世界各国が必死になって取り合うのか?」です。
レジスタンスが戦う理由は簡単で、理不尽な搾取にあっているからです。
しかし、各国がここまで日本を取り合う理由がよくわかりません。
たくさんのロボットやその他の軍事兵器、莫大な資金を消耗してまで、日本という小さな島国を取り合う理由とはなんでしょうか?
まさか領土争いだけが理由ということはないと思いたいです。
例えばですが、ロボットを動かすために必要な資源が日本にしかない、もしくは日本に豊富にあるとかならわかります。
『アバター』や『ロストプラネット』のように、とても貴重な鉱物や燃料が日本にあるというなら、納得できます。
もしくは、世界はすでに汚染されていて領土自体が貴重なものだとか。
プランテーションをつくりたいなら、領土が狭い日本は不向きだし、奴隷が欲しいならロボットにAIを入れて使えば済む話です。
やはり、現状では日本という小さな島国の領土を取り合うためだけに、大量の人員やロボット兵器を使っているとは考えられません。
今後、この理由が語られていくのでしょうか。
そして、結局ロボットが戦わないといけない理由とはなんでしょうか?(止まらずすみません)
レジスタンスのキャンプにて、きちんとマニュピレーターの概念があることなど、ロボットについての説明がされていきます。
その中で、キャンプ地がアジア軍にみつからない理由が説明されます。
レジスタンス曰く「高度な情報戦で衛星などを抑えている」とのことです。
高度な情報戦とはなんでしょうか?これが、レーダーや弾道ミサイル、戦車や戦闘機が使えない理由なのでしょうか。
このあたりが『境界戦機』の残念な部分です。
「いろいろな」とか「多数の人員」とか、ちゃんと説明してるように見せかけて、誤魔化している部分がちょっと多い気がします。
総評として、ロボットのデザインや、リアルな日本を舞台にするセンス、人がロボットに乗る臨場感など、良いところはたくさんある分、ところどころに引っかかる部分があり、世界観に没頭できませんでした。
説明しなければならない部分と、逆に説明せずに想像に任せる部分がどちらも中途半端で、観ていてモヤモヤしてしまいます。
個人的には、まずは最優先に、わざわざスケールの小さい日本を戦闘の舞台にえらんだのなら、理由を明らかにして欲しいです。
ですが、まだ大規模なロボット同士の戦闘シーンは描かれていませんし、まだまだ謎が多い部分もあるので、それがどう描かれていくのかに期待したいです!
批判多めになってしまいましたが、次回第5話以降は大きく物語動くようなので、ここからどう物語が展開していくか、楽しみにまちましょう。
それでは次の記事で!