今回は『メイドインアビス』に登場するキャラクター「ボンドルド」について語っていこうと思います。
『メイドインアビス』といえば、シリーズ累計発行部数333万部越えをしアニメ化、映画化もされている人気ファンタジーアドベンチャー作品です。
まずは『メイドインアビス』がどんな作品なのか簡単に語っていこうと思います。
ダークとファンタジーの絶妙なバランス。
Wikipedia等のインターネット百科事典で検索すると、『メイドインアビス』の主なジャンルは「ダークファンタジーアドベンチャー」と出できます。
「アビス」という世界にぽっかり空いた大穴には、下に降りれば降りるほど、神秘や宝が溢れていいます。
しかし、その引き換えに降りれば降りるほど帰還が困難になる「上昇負荷」という呪いがあります。
「上昇負荷」は降りれば降りるほどその効力が増していき、主人公のリコ達が目標とする「最深部」へ達するには二度と穴から変えることのできないという覚悟が必要です。
ファンタジー、アドベンチャーと言っても世界観はリアルでダークな部分もあり、他のファンタジーでは誤魔化していたり、あえて描かない部分をしっかり描いている作品です。
重要キャラクターでも死亡したり、命は無事でも四肢欠損したり、並の覚悟では視聴出来ない作風をしています。
その「ダークファンタジーアドベンチャー」のダークの8割を占めるキャラクターこそ「ボンドルド」です。
映画をR15+にした男。
『メイドインアビス』の最新映画『深き魂の黎明』はR15+になっており、親同伴であっても15歳未満は映画を視聴できません。
なぜそんな制限がついてしまったかというと、映画に登場する重要キャラクターである「ボンドルド」に原因があります。
『メイドインアビス』という作品の“ダーク”の約8割はボンドルドに原因があり、映画に関しては完全にこの登場人物のせいで映画がR15+になってしまったと言っても過言ではありません。
劇中の性的描写、グロ、ゴアは全て「ボンドルド」が関わっています。
ボンドルドとは。CV森川智之のゲス外道。
『黎明卿 ボンドルド』パワードスーツと不気味な仮面に身を包んだCV森川智之さんの、優しい声色を持つ物腰柔らかな男性。
作中で語られる生ける伝説「白笛」を持つ一人で、「黎明卿」「新しきボンドルド」という2つ名を持っています。
「共に夜明けを見届けましょう」
「慈しみ合う心こそがヒトを家族たらしめるのです」
このセリフに裏表はなく、心の底からでた言葉で、一児の父であり、深界五層にある「前線基地(イドフロント)」を拠点に、アビスの解明、開拓に挑む科学者です。
拠点である深界五層は、子供の体力では帰還不可能、大人でも探掘家として訓練を積んでいなければならないほどの強力な上昇負荷があります。
危険なアビスの深層にいながらも、新薬や完全栄養食を開発したり、あろうことか「上昇負荷を克服する装置」を開発した作中屈指の偉人です。
さらに彼自身には名誉や金銭に頓着はなく、ただ研究に没頭するという、話だけ聞く限りではかなりの聖人っぷりです。
しかし、その正体は人体実験による成果であったり、アビスの原生生物や環境に一切配慮をしない常軌を逸した価値観を持ったサイコパスです。
「上昇負荷を克服する装置」はカートリッジと呼ばれており、その正体は「箱詰めした子供」です。
脳や脊椎、必要な臓器だけを残し、体の皮膚や臓器、数日間生きるだけに必要のない感覚器官を全て排除し、薬液で満たした箱に詰めたものが、カートリッジです。
「上昇負荷を克服する」といっても、無効化するのではなく、“呪いを他人に押し付けているだけ”なのです。
ボンドルドは、多くの孤児達を拾って育て、実験に使うことによってカートリッジの開発に至りました。
実験とは、子供を昇降機に閉じ込め、わざと上昇負荷を与えることであり、実験の中で絆があれば呪いを他人が肩代わりできることを発見したのでした。
故にボンドルドは、実験に使った子供、カートリッジにした子供全てを愛を持って育てており、名前はもちろん、将来の夢や好きな事を暗記しています。
カートリッジとして使い捨てた子供の夢を語る姿はまさにサイコであり、語弊があるかもしれませんが、観ていてめちゃくちゃ面白いシーンでもあります。
「おやおや◯◯(子供の名前)が終わってしまいました。」
「将来の夢はお姫様だった」
語る言葉に嘘偽りはなく、本気で言っているんです。
この“本気”というのは、ただ物語に深みを出したいからサイコキャラにするために言わせたセリフじゃないと思います。
ロボットが人間っぽく、人間がロボットっぽい。ボンドルドの真の役目とは。
上記のボンドルドの非道な行いに対して、リコの相棒でロボットの少年レグは「許されてはいけない」と語り、対してリコは「ロマンはわかる」と語ります。
リコもレグも、ボンドルドと戦うという立場は同じですが、考え方は対照的になっており、そこが面白い部分でもあります。
人間であるリコは非人道的な行為に理解を示すのに、非人間のレグは非人道的な行為を理解、許容することができないんです。
それはひとえに考え方がレグは子供で、リコは大人だったからです。より正確に言えばリコの方が現実を知っていたわけなんです。
現実というのは、アビスの外の世界もアビスと同じように別の意味の呪いが溢れているということです。
『メイドインアビス』ではアビスの外の世界が、ちょくちょく描かれることがあります。
それはリコ達の回想だったり、友人のスピンオフシーンだったりするんですが、そこでは美しさや故郷の美しさみたいなものが主に描かれます。
しかし、ボンドルドやナナチ視点の回想では、外の世界には戦争があることや孤児が溢れていること、無数の病気があることが描かれています。
アビスの中には上昇負荷という呪いがありますが、アビスの外は外で、いろんな呪いが溢れており、ボンドルドが開発した完全栄養食も新薬も本当に世界に必要なものというのも事実です。
アビス出身のレグはそんなこと全然知らないので、ボンドルドを非難できますが、リコは残酷な世界の事情を知っているからこそ、ボンドルドを完全に否定することができないんです。
ボンドルドは確かに子供達に非人道的な行為をしましたが、ボンドルド自身もまたアビスのために犠牲になっている存在です。
白笛は自分自身を贄にして造り出したものであり、人間としての尊厳もとうの昔に捨てているんです。
レグというロボットが人間賛歌を語り、人間であるリコが非人道的行為を擁護する。
この構図が観ていてめちゃくちゃ面白いです。
現実の人間だって新薬を開発するために動物を使って実験していますし、家畜を飼育するのにも、畑を作るのにもたくさんの原生生物を犠牲にしてきたわけです。
そういう一種の汚れ仕事をやってくれる人がいるからこそ生きていけるし、自分の仕事や夢に向き合うことができます。
リコ達は最後、ボンドルド壊れた仮面の奥に人の目をみます。
対峙していた時は化け物のような目をしていたのに、和解してからみた瞳は青い澄んだ瞳になっています。
これにはちゃんと演出的な意図があり、リコ達がボンドルドも自分達と同じ人間であり、大きな視点では同じ仲間であるということを理解したという、リコ達の精神的な成長を描いているんです。
ちゃんと自分が目指す夢のダークな部分を知ったからこそリコ達はさらなる下層へと挑むことができるのです。
そういう意味では、ボンドルドはリコ達にとっての教師であり、先輩であり、仲間でもあったというわけです。
『メイドインアビス』という作品は、ダークな面があるからこそ、命や世界の美しさが際立っており、ただゴア表現が溢れている作品というわけではありません。
ボンドルドというキャラクターがどこか憎めず、魅力的なキャラクターとして描かれているのは、ちゃんと意図されたことだったと思います。
ボンドルドの二つ名は『黎明卿 新しきボンドルド』と言います。
それは単に属性的な意味だけでなく、リコ達にとっての”新しい視点”“大人になるための夜明け”をくれる存在としての意味があるのだと思います。
話がちょっと変わりますが、ボンドルドのフィギュアも発売されるとの事なので、その時は是非レビューしようと思っていますので、またご覧いただけると幸いです。