引用:Amazon グエムル-漢江の怪物- スタンダード・エディション [DVD]
韓国の映画『パラサイト』が大ヒットを記録して、ポン・ジュノ監督に、またまた注目が集まっています。
今回、レビュー&考察、解説していこうと思うのは、ポン・ジュノ監督作品の『漢江の怪物 グエムル』です。
小学生の頃の私は、とにかく『怪獣』や『モンスター』が出てくる映画を漁っていました。
その中に『漢江の怪物 グエムル』がありました。話の流れや、思ったことぼんやりと覚えていましたが、タイトルまでは、覚えてはいませんでした。
しかし、最近『怪獣映画』についての記事を書いていることや、Amazonプライムで『グエムル』が公開中なこと、ポン・ジュノ監督作品が話題になっていることが重なり、再度真剣に観た上でレビューを書こうと思いました。
なぜこんな身の上話をしたかというと、今回のレビューの大事な部分だからです。
何も知らなかった子どもの頃の自分と、色んな映画を観てきたあとの自分の感想を、「どちらも踏まえたレビュー。」ということを、知ってもらった上で読んでいただきたいからです。
※この記事には微量なネタバレが含まれています。
目次
あらすじ&良かった点:ストーリーは家族版オズの魔法使い。
怪物にさらわれた娘を助けるべく、ポンコツ家族が一致団結する。
というのが『漢江の怪物 グエムル』の物語のベースです。その中に家族愛や社会風刺という、スパイスが散りばめられています。
怪物にさらわれた女の子の父親は、親の仕事をたまに手伝うだけのほぼニートです。家族の皆も、なにかしらの欠点を抱えています。
女の子のために一致団結することで、自分の長所を見つけたり、短所を克服する。
こういうストーリーを私は個人的に、「オズの魔法使い系」と分類しています。
オズの魔法使いというのは、小説原作で色んなお話がありますが、どんなお話か要点の部分だけを書きます。
知恵が欲しいカカシや心が欲しいブリキ人形、勇気が欲しいライオンが、オズの魔法使いに願いを叶えてもらうために、女の子のドロシーと悪い魔女を倒すべく旅をする。
知恵をつかって困難に対処するカカシや、ドロシーを気遣う心を手に入れたブリキ人形、ドロシーを助けるため勇気を出すライオン。
ドロシー達は一致団結することで、自分達の短所を克服した。
という物語です。
この他にも、オズの魔法使いシリーズには、色んなお話がありますが、上記の部分が一番有名なお話ではないでしょうか?
童話として、多くの絵本や劇があります。
つまり、子どもでも面白いお話になっているということです。
個人的に素晴らしい映画とは、『二重構造』がある映画だと思っています。
例えば、ジブリ映画『天空の城ラピュタ』だと、「パズーとシータの熱い冒険譚」という、誰にでも楽しめる一重目を面白く描きながらも、
「ラピュタの謎、宮崎駿監督のセリフにないメッセージ。」
「監督流のかっこいい飛行メカ」
など、大人や、そのジャンルのオタクでも楽しめる、二重目の面白さもしっかりと用意されています。
『漢江の怪物 グエムル』も、子どもでもわかりやすく面白いと思える、一重目の一家団結、家族愛を描いた物語。
そして二重目の大人も考えさせられるような、社会風刺や監督のメッセージもしっかり用意されています。
なので、レビューの結論を言ってしまうとこの映画は、「良い作品」ではあります。
ただ、そのぶん残念な点も目立つ作品です。
残念な点:『怪獣映画』としての魅力がゼロ。
日本やハリウッドの怪獣映画や、モンスターパニック映画は、モンスターが魅力的かつ、モンスターによって右往左往する人間模様が面白いです。
しかし、この『漢江の怪物 グエムル』は怪獣として、モンスターとしての魅力がゼロ。とまでは言わないとしても、限りなく低いです。
グエムルはあくまで小道具でしかなく、主役が社会風刺と家族愛になっています。
監督は『憎めない怪物』『魅力的な怪物』を作りたかったと、インタビューで語っていますが、正直そこまで魅力的ではありませんでした。
そもそも、グエムルが風刺しているものとは?
本作は全体的に社会風刺として、『反米』の面が濃いです。
怪物グエムルが誕生する原因となったのは、有害な薬品が漢江(川)に流されたことです。
これは、実際に韓国でおこった在韓米軍がホルムアルデヒドを川に流した事件から、着想を受けたそうです。
さらに、劇中で使われた『エージェント・イエロー』は、米軍がベトナム戦争の時に使われた枯葉剤、『エージェント・オレンジ』を模しています。
枯葉剤というのは、除草剤とも呼ばれるものです。当時のそれは、かなり危険なもので、化学兵器として使えてしまいます。
日本でも庭師や業者が使うような、強力な除草剤を買うには、身分証明書の提示が必要な上、原液は何倍にも水で薄められて使われます。
人体にとても有害で、身体障害や奇形児の原因ともなります。
エージェント・イエローは、怪物と怪物が原因のウィルスを除去するために散布されるんですが、そのエージェント・イエローが引き起こすであろう、人体への害に対するデモが起きたりします。
日本の核や放射能問題のように、韓国での社会問題として、化学薬品が描かれています。
『グエムル』の正体は、明確にはされていませんが、川に流出した化学薬品が原因で生まれた魚の変異体だとされています。
ただ、それはあくまでグエムルが生まれた原因です。
なぜ、ゴジラは怪獣として評価されているのか?
『怪獣の正体』というものは、『素性』と『モチーフ』、『理由』の3種類から成り立っていると思っています。
メタ的に言うならば、作中の設定が素性、監督がこめたメッセージがモチーフです。
そして、それを視聴者に連想させるためのものが『理由』になります。(抽象的でごめんなさい)
初代ゴジラを例に出して説明すると、
初代ゴジラは、日本にやってきた太古の恐竜の生き残りです。これはゴジラの素性の部分です。
ゴジラの頭部は原子爆弾が落ちた際にできるきのこ雲を、さらにゴジラの皮膚はケロイドをイメージしたデザインにされています。これは『反核』というモチーフからなる部分です。
さらにゴジラが日本に来た理由は、アメリカの水爆実験により住処を追い出されてしまった、もしくは水爆実験で眠りから起こされたからです。
この3つが合わさってこそ、『ゴジラ』という怪獣に深みがでます。
グエムルが怪獣として魅力がない理由
『グエムル』は「薬品の影響で生まれた魚の変異体。」というのが素性で、魚の変異体という奇妙なデザインは、劇薬が及ぼす奇形をモチーフとします。
では、無差別に人を襲う理由はなんでしょう?
グエムルは襲った人間をすぐに食べずに、生きたまま巣に持ち帰るという生態があります。(なぜ突然変異の怪物に生態があるのか疑問でした笑。グエムルにとっては、余ったご飯を冷蔵庫に入れておく感覚かもしれませんが笑。)
生かされたまま連れてこられたのは、主人公の娘と、少年だけ。大人は殺されるか瀕死の状態。連れていかれた娘の生死を、自分の事のように心配する家族。
これは、韓国人拉致問題を指しているのではないのでしょうか?
上記だけなら考えすぎと言えますが、ご丁寧に『娘は、北の側にいるんだ!』というセリフまであります。
これではもう『社会風刺の渋滞』が起きています。
怪物だけで風刺満載なのに、人間ドラマの方では、「荒らさないと 食べれない。(商店の物を盗まないと、ものが食えない。)」というセリフがあり、店泥棒を貧困で正当化する格差社会へのメッセージまであります。
デモ、反米、薬品問題、家族問題、格差社会、拉致、汚染、ウィルス、韓国政府…etc
多くの角度から社会風刺を取り入れている割には、「市民が平気で物を川に投げ込む」という、「それこそ問題にしなきゃダメだろ笑」という部分にはノータッチです。
つまり、怪物は主役をはるどころか、小道具にしかなっていません。
社会風刺を描いた映画としても内容が伝わりにくい
「社会問題のかたまりのような怪獣が、加害者も被害者関係なく蹂躙する。結果、被害者も加害者も団結する」
だからこそ怪獣は、どこか憎めない存在になるのです。
グエムルが、薬品被害を受けた被害者達だけでなく、その原因をつくった米軍や、社会問題に対して無関心な政府や富裕層も襲う。
それに対して、国家全体が危機感をもって対処するようになる。
もはや、グエムルを倒すのがひとつの家族か、軍隊かはどうでもいいです。
しかし、この映画でグエムルに襲われるのは一般市民だけです。襲われたとしても、アメリカ人の勇敢な1兵士や清掃員などの、何も知らない組織の末端の人達です。
事件を起こした張本人達は、なんの報いも受けてないのです。
これでは、また同じような事は起こるだろうし、事件は繰り返されていくでしょう。
こういった部分がイマイチ、モンスターパニック映画として認められない部分だと思います。
モンスターや怪獣を望んでみる人は、何か違う気がしていまうし、社会風刺を描いた映画として観ようにも、怪物という「ぼかし」が入っているため、内容が伝わりにくく感じてしまいます。
それとも、これは監督流の「社会問題の尻拭いを差せられるのは、一般市民達」というブラックユーモアなのでしょうか?
だとしたら、グエムルは化け物であって、二度と『怪獣映画』とは言わないで欲しいですね。
まとめ:怪獣映画としては惜しい作品
最終的には批評になってしまいましたが、二重構造としてよくできた映画ではあるし、ジュノ監督による圧倒的画面構成力は見ものです。
怪物と人間が併走する圧迫感や、あえて怪物を映さないことで伝わる恐怖が、ものすごく上手です。
俳優陣の演技のレベルは高いし、脚本も面白いです。
社会問題を忘れないために、映画という形で後世に伝えるのはとても大切なことです。
良い映画だからこそ「もうちょっとこうしてほしかった。」という高望みの感想が出てきてしまいます。
社会風刺を詰め込むのなら、グエムルの顔をもっと鯉や鮒に似せるのはどうでしょうか?
真偽に関わらず、メディアやネットの情報をなんでもパクパク飲み込んでしまう、膨れ上がった醜い過激派の象徴。
グエムルに手を焼く政府を嘲笑う過激派さえ、まるのみにするグエムル。
これなら怪獣映画の欄に『漢江の怪物 グエムル』が置いてあってもまだ許せます。
現在Amazonプライムで視聴者可能なので、まだ観てない方には、おすすめできる映画です。
ただようB級感はありますが、見たら見たでちゃんと「観てよかった」と思える作品です。
オススメの怪獣映画に関する記事、YouTubeで動画を上げているので、よろしかったらぜひ見てください!
それではまた次の記事で!