【風の谷のナウシカ】墓所の主の正体は人造の神。「On Your Mark」と繋がる世界観。解説&考察についての記事をご覧いただきありがとうございます。
この記事では『風の谷のナウシカ』の考察として、ラスボスポジションである“墓所”と墓所の主について考察・解説していきます。
宮崎駿監督の最新作、2023年7月14日に公開予定『君たちはどう生きるか』。
ジャンルは“冒険活劇ファンタジー”ということで、もしかしたら似たモチーフが出てくるかもしれないので今のうちに振り返っていきましょう。
目次
墓所とは。『風の谷のナウシカ』の暗部。
巨神兵がエヴァの元ネタなら、ラミエルの元ネタは墓所かな?#エヴァンゲリオン #風の谷のナウシカ pic.twitter.com/P7FB95viZL
— アリスケ (@walking_planets) May 20, 2020
登場作品 | 風の谷のナウシカ |
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巻数 | 全7巻 |
作者 | 宮崎駿 |
出版社 | 徳間書店 |
主人公 | ナウシカ |
ラスボス | 墓所(墓所の主) |
墓所とは、土鬼諸侯国連合の聖都シュワにある見た目は黒い立方体の建造物で、銃や爆薬など通常の兵器では傷一つ付けることは出来ず、攻撃しようとした者は正面についている目のような模様から放たれるビームによって迎撃される。
中には旧世界の秘密と技術が隠されており、歴代土鬼諸侯国連合の王は墓所の技術を扱うことで民をまとめ、他の国に負けない軍事力を維持していました。
見た目や世界の真相を握っているという点では『2001年宇宙の旅』に登場する“モノリス”ににており、「攻撃しただけ倍返ししてくる無機物っぽいもの」という性質は『新世紀エヴァンゲリオン』に登場する使徒“ラミエル”に似ています。
ラミエルについての記事はこちら
正攻法で中に入るのは、非武装になり中に住んで墓所に使えている教団の出迎えを待つしかありません。
ちなみに、中に住んでいる教団の人間はみな博士で、墓所を神聖視しながらも研究を続けているただの人間でしかありません。墓所の技術によって不死の力を得ているものの不老ではないため、綿布に覆われた顔はとても醜い…。
そして教団に迎えられたものは墓所の中枢に招かれ、墓所の主によって世界の秘密が語られます。
墓所の主とは。正体は旧世界を知る人造の神。
墓所の主とは『風の谷のナウシカ』に登場するラスボスといえるキャラクターです。精神を破壊する光や、人の人格を乗っ取る術を使うことができ、ナウシカ達に世界の秘密を語ります。
ナウシカ達が中枢に招かれた際に最初に現れたのは、旧世界に生きた人間たちの記憶を有したホログラムでした。
旧世界に生きていた人たちであろう墓所の主達は語ります。
世界は人類の愚かさによって滅びてしまったため、腐海によって世界が浄化されるまで、旧世界の技術で自分たちの子孫の卵を守ってほしい。
なんだか綺麗なことを言っているようで、実際は体のいい奴隷がほしいだけだとナウシカは見抜き、墓の主に対してごまかさず真実を語れと問いただします。
墓所の主の正体と目的は?旧世界を知る人造の神。
ナウシカが墓所に対して否定的な態度をとると、墓所の主は道化の体を乗っ取り、真の顔をさらします。
墓所の主はナウシカ達に語ったのは旧世界末期の壮絶で悲惨で最悪の惨状でした。
「数百億の人間が生きるためにどんなことでもする世界」
「有毒の大気、凶暴な太陽光、枯渇した大地、次々と生まれる新たな病、おびただしい死」
「ありとあらゆる宗教、ありとあらゆる正義、ありとあらゆる利害、調停のために神まで造ってしまった」
旧世界の末期とは、様々な病気や天変地異が人間を襲っても、それでも争いをやめなかったまさに地獄の様相でした。
多種多様な考えや宗教が氾濫し、もはや人間同士での調停が不可能と判断した当時の人々は、圧倒的な武力を持つ第三者、つまり神のような存在を欲し、調停と裁定のために造り出したのが巨神兵でした。
そして、絶望の時代の中で唯一価値があるものとされた“音楽と詩”を後の世界に保存し、汚染された世界が浄化されるまで“音楽と詩のみを愛する平和な新人類の卵を守る”のが墓所の目的でした。
“墓所”とは、醜い旧世界への訣別の意味が込められた言葉でした。
また、ナウシカ達の正体は旧世界の子孫ではなく、汚れた世界でもある程度適応できるように造られた人造生命体であり、浄化されて綺麗になった空気では生きていけないという事実も語られます。
墓所の主の最期。王蟲もナウシカも造られたものだった。
腐海が世界を綺麗にしていたのは“そういう目的で造られたものだから”
ナウシカ達が毒まみれの世界で生きられるのは“汚い世界でも生きられるように造られたから”
この二つは物語終盤ですでに匂わされていましたが、墓所の主の発言によってそれが真実であると確定されてしまいます。
墓所の主は、世界が浄化されればナウシカ達が浄化された世界でも、生きられるようにする技術が墓所にはあると語りますが、ナウシカは墓所の守り手になることを拒否します。
「滅びはすでに生命の一つであり、浄化された世界で死ぬしかないならそれもまた必然。それでも諦めず生きていく。」
破滅的とも思える考え、そして自分の存在意義を否定された墓所の主はナウシカ達を中枢に閉じ込め、光による精神攻撃をします。
しかし、森の人とヴ王に守られたナウシカに精神攻撃は効かず、ナウシカの命によって巨神兵が墓所にプロトンビームを放ちます。
巨神兵の攻撃で、心臓部と卵を破壊された墓所は絶叫しながら絶命しました。
墓所はそれ全体が建造物のようにみえる墓所の主の肉体であり、真っ青な返り血をあびたナウシカはまるで伝説の“青き衣を纏いしもの”のようになっていたのでした。
『風の谷のナウシカ』アニメと漫画のラストの違い。
「青き衣をまとったナウシカが金色の大地を歩く。」という物語のラストの絵面は、アニメも漫画も同じです。
しかし、アニメ版では「王蟲の返り血によって服が青く染まっている」のが「墓所の返り血によって服が青く染まっている」になっています。
アニメ版では、残酷なペジテの囮作戦で傷つけられた王蟲を労る際に着いた血ですが、漫画版では自分でしっかりとどめを刺した相手の返り血です。
ナウシカの衣は人造とはいえ、神の返り血によって青く染まっているという、ある意味おぞましい姿になっています。
さらに“金色の大地”というのも違っています。
アニメ版では、王蟲の労りと友愛の証である金色触手が集まることで、まるで実った麦畑のようにみえました。
これからの未来と豊穣、繁栄と希望を暗示するようなラストでした。
しかし、漫画版での金色の大地は「巨神兵が焼き払った更地に、太陽光が反射して金色にみえる」というものになっています。
過去との決別を暗示するようなラストです。
負の旧世界との決別を意味するといっていた墓所は、人造人間達を騙すような、まやかしでしかなく、真の意味での決別とは言えません。
過去の技術や人造の神などに頼らず、1から進んでいくという覚悟が、あのラストには込められていると思います。
宮崎駿監督は、アニメ『風の谷のナウシカ』がご都合主義の宗教映画になってしまったのを悔やんでいたことを語っていました。
出来はいいけどラストが良くない。
漫画版のラストを読むと、本当はどんなことが描きたかったのかわかるような気がしますね。
「王蟲や神様頼りに生きるのではなく、人間は人間同士で助けあって生きていくしかない。」
「規定された救済ではなく、自分達の手で未来を切り開いていく。」
漫画版のラストでは、そんなメッセージがあると思います。
墓所が死んでから、墓所の血と王蟲の血が同じものだったことがわかり、墓所の主は本当に世界の救済のために造られたのだとわかります。
しかし、そんなものに頼って平和に生きるのは、巨神兵の火で生き残ろうとしたアニメ版のクシャナのやり方と同じく邪道だと思います。
『風の谷のナウシカ』の『On Your Mark』? “凶暴な太陽光”というワード
墓所の主によって語られた旧世界の様子は、宮崎駿監督が制作した『On Your Mark』の世界を連想させます。
『On Your Mark』の世界は言葉や設定が語られませんが、画をみると悲惨な世界の様子がわかります。
『On Your Mark』の世界は、原子炉が暴走しており、大地は放射能に侵され、オゾン層がもはやないのか凶暴な太陽光から逃れるために人類は地下に住んでいます。
さらに、登場する不気味な宗教は神を欲し、争いは絶えず、人類は食糧難故か生命をつくりかえる技術までもっているという世界です。
これまた地獄みたいな世界ですが、墓所の主が語った世界にすごく似ています。
巨神兵が焼いていたような高層ビル群だけが見当たらないので、必ずそうだとは言い切れませんが、十中八九『風の谷のナウシカ』の世界の前に『On Your Mark』の世界があったと言ってもいいでしょう。
墓所の主と庭の主の顔が似てる?上位者、人工生命体の顔。
墓所の主は庭の主に顔が似ています。
庭の主とは、漫画『風の谷のナウシカ』に登場するキャラクターで、正体は上位種のヒドラです。
“庭”とは外から見ると廃墟の様にみえる隠された楽園で、“旧世界の価値あるもの”である歌と詩、そして滅んでしまったはずの旧世界の哺乳類や蟲ではない虫、安全でおいしい果物を実らせる果物などがあります。
甘い空気が漂い、そこにいると幸せな気分であふれて、外の世界なんか忘れてずっとそこに居たくなるような不思議な空間です。
墓所が旧世界の武器や不死の技術、旧世界の人間の卵など負の面をもった箱舟だとしたら、庭は真に価値あるもののみを詰め込んだ箱舟だといえるでしょう。
庭の主は神聖皇帝や墓所の主のように人の心を読み、弱みを癒すことで庭から人間を出させまいとします。
墓所を破壊しにいくナウシカを、心の弱みをつついたり、世界の残酷な真実を伝えることで、庭にとどまらせようとしますが、固い決意と本気で世界のことを想うナウシカに根負けし、ナウシカが墓所へ行くのを見送ります。
ナウシカ曰く、庭の主は“残酷だが優しい”。だからナウシカの生命を奪ってまで、墓所へ行くのをとめることはできませんでした。
皮肉にも、甘い言葉で誘惑する割りには、最終的に脅したり殺そうとしてきた“優しいようで残酷”な墓所の主とは、顔は似ていても対照的なキャラクターだといえるでしょう。
まとめ。墓所の主とナウシカはどちらも正義がある。
争いを憎み、真に平和な世界を造ろうとした墓所の主も。それは生命のあり方ではないと否定したナウシカもどちらも正しさがあるように感じます。
どちらが正しいのかはその時代によって変わるため、その時代に生きた者たちにしか決められないと思います。
以上まとめると
- 墓所・墓所の主とは「風の谷のナウシカ」におけるラスボスポジションの存在。
- その中には世界の真実と旧世界の技術が残されているというが、巨神兵に負けない強力な防衛装置をもっている。
- 正攻法で中に入るには非武装になり中に住んでいる教団の出迎えを待つしかない。
- 墓所の正体は旧世界に造られた人造の神。
- 墓所の目的は浄化が終わるまで「音楽と詩のみを愛する平和な新人類の卵を守る」こと。
- 墓所とは醜い旧世界への訣別の意味が込められた言葉だった。
- 墓所の主が語る旧世界は『On Your Mark』を連想させる。
- 外見が似ているが対照的なキャラクターとして庭の主という存在がいる。
2023年7月14日に公開される宮崎駿監督の最新作『君たちはどう生きるか』はどんな世界が描かれるの楽しみです。
冒険“活劇”ファンタジーなので明るい世界観なのかもしれませんが、個人的には荒廃した世界や世紀末、終末が大好きなのでそういう世界が観たいですね。
以上、最後まで読んでいただきありがとうございました。