興行収入が『シン・ゴジラ』を超えるとも言われている『シンウルトラマン』。
人間と宇宙人の間で揺れるウルトラマンは実に魅力的です。
しかし、魅力的なのはウルトラマンだけではありません。ユニークな外星人や禍威獣達が登場するのも作品の大きな魅力です。
今回は『シン・ウルトラマン』に登場した禍威獣の解説、考察をしていきたいと思います。
目次
『シン・ウルトラマン』に登場する禍威獣とは。怪獣とはどう違う?
禍威獣とは、『シン ・ウルトラマン』の劇中にて登場する巨大不明生物の総称です。
なぜか日本にしか出現せず、第○号と呼称され地震や台風と同じ自然災害のひとつとして描かれています。
『シン・ウルトラマン』の冒頭で紹介された怪獣は全6体で、3号まで「巨大不明生物第○号」と呼ばれ、4体目以降から「敵性大型生物第○号 ○○禍威獣○○」と呼ばれていました。
そして、劇中の後半に禍威獣とは『生物兵器』だったということが明かされます。
かつて外星人同士が星間戦争に使った兵器であり、それが地球に投棄されたものでした。
一部の怪獣のデザインが似ているのも生物“兵器”として、規格が合わせてあるからということで、昭和のウルトラシリーズでお馴染み“着ぐるみ改造の歴史”を面白く作品に落とし込んで表現していると思います。
一応『シン・ウルトラマン』にて悪役ポジションの外星人メフィラスによって日本と交渉するため、その準備段階として禍威獣達を起こしたとされています。
メフィラスの立場からすると、日本には禍威獣の脅威を理解して欲しいのと同時に、禍威獣に負けて滅びてしまっても困る存在になっています。
この設定により“なぜか怪獣が一体ずつしか現れない”という『ウルトラQ』や初代『ウルトラマン』の放送当時からあった”メタ的”な疑問にも合理的に回答しています。
この「怪獣は宇宙人の侵略兵器」「姿が似ているのは兵器として工業製品のように規格が存在しているから」という設定は映画『パシフィック・リム』にもありました。
ただ、『パシフィック・リム』とは違う「怪獣が一匹ずつしか現れない理由」を合理的に説明しているのも面白いところです。
詳しくはこちらの記事で
メフィラスの言い分としては、禍威獣が現れたのは人間の環境破壊にも非があるということなので、その言葉が本当であれば今後もほかの禍威獣が日本に現れる可能性があります。
過去作へのリスペクトとオマージュが熱い!禍威獣解説、考察。
ここからは『シン・ウルトラマン』の劇中に登場した禍威獣達を解説していきます。どの怪獣達も過去作から現代風へと程よくアップデートされています。
初めて怪獣を観る子供や、当時作品を観て感動した大人も両者ともに楽しめるようなデザインと演出になっています。
巨大不明生物 ゴメス
『シン・ウルトラマン』の作中世界線で初めて現れた禍威獣とされていて、山間部に現れ、自衛隊によって駆除されたことが語られます。
デザインがシン・ゴジラに非常に酷似しており、しっぽを高く上げて摺り足のように歩く姿はまさにシン・ゴジラそのものです。
シン・ゴジラの歩き方は、“二足歩行のしっぽがある巨大生物がもし現実に現れたらこうなるだろう”という思想のもと考えられたものであり、ゴメスが似るのもまた必然ということになります。
メタ的に言えば恐らくモーションキャプチャも同じものを利用しているものと考えられ、ゴジラの着ぐるみを流用していた過去作への現実と虚構あわせたオマージュだと考えられます。
初代は『ウルトラQ』の記念すべき第1話「ゴメスを倒せ!」にて登場し、ウルトラシリーズで登場した初めての巨大生物になります。
山間部の地底で永い冬眠をしていた個体が高速道路の工事によって目覚めました。
頭の角や鋭い爪、全身の鱗から恐竜や爬虫類かと思いきや、実は原子哺乳類です。
大きさは身長約10mで、現代の怪獣と比べると小さく感じますが、それでも熊や猪などの現存する哺乳類より大きく、またとても凶暴です。
一応爬虫類と哺乳類の中間の生命体というとになっていますが、詳しい設定をしってあのかっこいいゴメスが、実は哺乳類と知ったときはなぜかがっかりしたのを覚えています。
ジュラシックパークなどの海外のモンスター映画を見慣れていた頃の自分からしてみると、怪獣やモンスターといえば爬虫類か虫かのどちらかであり、哺乳類と聞くとどこか弱々しく感じてしまいました。
しかし、『ウルトラQ』本編では全く弱々しくみえません。
実際の熊を恐れるが如く、本気で怖がるキャストの演技力や特撮は、子ども向けとは思えないクオリティです。
巨大不明生物第2号 マンモスフラワー
『シン・ウルトラマン』の世界でゴメスに続き日本に現れた二体目の禍威獣『ウルトラQ』第4話「マンモスフラワー」に登場する巨大な古代植物です。
植物といえどその所業は並の怪獣よりも恐ろしく、東京の至る所に人間の血を吸う根を張り巡らせていました。
『シン・ウルトラマン』版では東京駅に出現しており、最終的に炭酸ガスと火炎放射で討伐されたことが語られており、倒し方は『ウルトラQ』と同じだったようです。
ダイジェストでの登場だったものの、観客の目に焼き付くデザインのインパクトはさすがと言えます。
巨大不明生物第3号 ペギラ
原典は『ウルトラQ』第5話「ペギラが来た!」で、マイナス130度の反重力光線を用いて東京を氷河期のようにしてしまいました。
『ウルトラQ』では作中内で撃退される描写はあるものの討伐されることはなく、“またいつ東京に来るかわからない”という後味悪い終わり方で締めくくられていますが、とある女性化学者が発見した物質で駆除されたことが語られています。
『ウルトラQ』ではセスナ機の特攻によって撃退されていたので、冒頭から重い描写を避けるため変更されたのかと思います。
敵性大型生物第4号 飛翔禍威獣ラルゲユウス
『ウルトラQ』第12話「鳥を見た」に初登場した怪獣で、通常時は文鳥のような姿をしていますが、夜になると巨大化し家畜や人を襲う巨大な怪鳥です。
概要だけ聞くと危険な怪獣のように感じますが、自分の世話をしてくれたみなしごの少年には優しく、暴れる姿はみなしごの少年が社会に対して感じるフラストレーションを体現しているかのようでした。
『ウルトラQ』の作中同様、『シン・ウルトラマン』の劇中においてもラルゲユウスは駆除されることなく、猛威を振るうだけふるってどこかへ飛び去って行きました。
その際、「ラルゲユウスにはステルス機関が体内にあるのではないか?」という補足が加えられていました。
敵性大型生物第5号 溶解禍威獣カイゲル
原典は『ウルトラQ』第24話「ゴーガの像」。
『シン・ウルトラマン』にて、なんと約50年振りにリメイクされた姿が登場しました。
個人的にはゴメスやラルゲユウス、ケムール人にも並ぶウルトラQを代表するような好きな怪獣だったので、前のめりになって震えていました。
目からは人間や鉄をも溶かす溶解液をだし、水爆でも壊せないほどの硬い殻を持ちます。
見た目はカタツムリそのままのようですが、劇中にて登場する美術品の密輸グループを意図せず倒したり、自衛隊と熱い戦闘を繰り広げるなど、ウルトラQに登場する怪異の中でも特に怪獣らしいところが魅力的です。
『シン・ウルトラマン』では禍特対と自衛隊の共同作戦にて駆除されたそうです。
頭のなかではパトレイバーの初出撃の時のような戦闘があったのかな?なんて妄想するのもたのしいのではないでしょうか。
ちなみに『ウルトラQ』ではゴーガという名前でしたが、『シン・ウルトラマン』では当時の名前の没案カイゲルを使用したそうです。
敵性大型生物第6号 放射性物質捕食禍威獣パゴス
原典は『ウルトラQ』第18話「虹の卵」。放射性物質を餌とし、ウラン貯蔵庫や原子力発電所を度々襲う厄介者です。
その放射能絡みの特性は『シン・ウルトラマン』にも引き継がれていて、劇中では「パゴス事案」と呼ばれるほど、禍特対や政府にトラウマとして記憶されているようです。
そして、注目なのはその出現場所です。
『シン・ウルトラマン』では空港、『ウルトラQ』ではウラン貯蔵施設などの開けた場所に出現しているところが印象的でした。
怪獣としての性質はもちろんありますが、ゴメスやマンモスフラワーと比べると、周りの風景がが寂しいです。
『ウルトラQ』でも、ゴメスには山間部の凹凸が激しい地形や細かいミニュアが用意されていたのに関わらず、パゴスが暴れる場所はかなり平面的な場所です。
こらは単純に当時の予算の問題やスケジュールの問題があったそうです。(諸説あり)
凹凸が激しい山間部の地形を用意したりするのは意外とお金がかかるそうで、もちろんパゴスが登場した回のミニュアも、後のウルトラシリーズと比べて遜色ないくらい出来はいいですが、制作陣は金銭的にも体力的にもかなり疲労があったそうです。
作中に登場するミニチュアの風景はだんだん、山がひとつしかないとか空港だとか、不自然にでかい道路とかがあるようになっていってしまったそうです。
こうした過去の“ウルトラQ感”がものすごくナチュラルに『シン・ウルトラマン』にあるのがすごく面白いところであり、樋口監督や庵野監督のセンスの良さでもあると思います。
禍威獣第7号 透明禍威獣ネロンガ
『ウルトラQ』からの出典がおわり、次は初代『ウルトラマン』からの登場怪獣です。『ウルトラマン』第3話「科特隊出撃せよ」 にて登場。
体を透明にする能力を有しており、電気を餌とするパゴスに負けず劣らずの厄介者です。
初代『ウルトラマン』では電気を餌としているという設定のみ明かされていましたが、『シン・ウルトラマン』ではなぜ電気を喰らうのかに理由が着けられていました。
メフィラスが語るには、彼らは第2世代の怪獣であり、ただ存在が迷惑なだけの怪獣5号までとは違い、局地制圧型のより攻撃的な兵器として外星人達に使われているようです。
電気やウランという人間にとってのライフラインを狙うのはもとからの習性というよりも外星人によって品種改良されたことによって得た特性なのかもしれません。
禍威獣第8号 地底禍威獣ガボラ
原典は『ウルトラマン』第9話「電光石火作戦」。ウランを餌とし、放射熱線を吐く強敵です。
強さは折り紙付きで、あのウルトラマンの走馬灯にでてくるほどです。
『シン・ウルトラマン』で登場した際はパゴスやネロンガと同じく、より兵器として特化した禍威獣としてウルトラマンを苦しめました。
日本人が敏感な放射能物質を禍威獣に襲わせることで、世間の注目をより集めることに成功したメフィラスの手腕はさすがです。
結局のところ禍威獣が日本にしかでない理由は、メフィラスが意図的に投棄されていた生物兵器である禍威獣を呼び起こしたことによるものでした。
しかし、登場した禍威獣達はどれも人間の環境破壊を憂う禍威獣ばかりです。
禍威獣の出現は、人間の環境破壊が原因だというメフィラスの言葉もあながち間違ってはいないのかもしれまん。
厳密には禍威獣ではない。天体制圧用最終兵器ゼットン。
原典は『ウルトラマン』最終回「さらばウルトラマン」。言わずと知れた「ウルトラマンを倒した怪獣」です。
初代の異名は「宇宙恐竜」でしたが、『シン・ウルトラマン』では“天体制圧用最終兵器”として登場しました。
初代のゼットンは宇宙人が使う侵略兵器として登場し、『シン・ウルトラマン』では光の星の裁定者が使う、文明をその恒星系ごと抹消させる兵器として登場しました。
兵器であると同時に執行者でもあるのが特徴で、ゼットンを退けることが出来るかどうかも、その文明にとってのひとつの試練になります。
衛星軌道上にいて尚、肉眼で確認できるほど巨体で、初代ゼットンと比べると100倍以上のでかさになっています。
メイン武装は1兆度の超高熱球であり、技自体は初代と同じです。しかし、初代の設定はその馬鹿げた熱量には無理があるとされていましたが、『シン・ウルトラマン』のゼットンにはそれをやりかねない視覚的な説得力がありました。
実はこの設定の元ネタは当時発売されていた児童書の特集「謎の宇宙人ゾーフィ」という記事で、こんな記述がありました。
「宇宙からやってきた怪獣。ゼットンをあやって大あばれする。ウルトラマンそっくりに変身する。」というゾーフィの説明文があります。
そして、なんとその児童書の説明欄の下には、しっかり引用元として「円谷プロ」と書いてあります。
いかに情報を手に入れることが当時難しかったのかがわかります。
さらに、それとは対照的にゼットンを撃退する方法が、世界各国の学者や知識人によるバーチャル会議というのがまた面白いです。
最後に。当時の資料を改めて読んでみて。
今回、(諸説あります)や“○○だそうです”が多くてすみません。
この記事を書くに当たって当時の資料を何個か読み直したり、新たに調べて感じたことは諸説がありすぎるということです。
例えば、成田亨さんはウルトラマンをデザインした人というのが最近ようやく知られていますが、昔は意図的に隠されていた時代がありました。
筆者が小さい頃に読んだ本では、ウルトマランは円谷英二がデザインしたとまで書かれていたものもありました。
そして驚くことにそんな資料が学校の図書室に置いてあったのです。ウルトラマンは天狗からイメージされただとか、仏からイメージされだとか書いてありました。
もちろん本当のこともあったとは思いますが、そのほとんどが審議の怪しいものでした。
最近、出版されている本であれば、ある程度信用できると思いますが、過去の資料を読む時は注意が必要です。
これからも禍威獣や外星人の解説、考察記事を上げていきます。合わせてYouTube動画も上げていくのでそちらもチェックして頂けると嬉しいです。