午前十時の映画祭にて、ついに座頭市物語 (4Kデジタル修復版/2K)が公開されました。
個人的には『モスラ』『2001年宇宙の旅』に継いで楽しみにしていた作品でもあり、公開が開始され、すぐに観に行ってきました。
弱きを助け強きをくじく。現代の作品にも通ずる王道の反骨精神を描いたストーリーであり、初公開から59年、映像の古さはあってもストーリーは今観ても目が離せないほど魅力的です。
今回はその『座頭市物語』の魅力や見どころについて語っていこうと思います。
目次
座頭市とは。マッサージ師であり、ヤクザであり、居合斬りの達人。
温厚で真面目、ちょっとやそっとでは怒らない盲目の旅人。
そもそも「座頭の市」というのは愛称であり、本名ではありません。「座頭」は盲人の一階級を表し、“市”というのはあんま師が使う仕事用の名前です。
登場人物達があんまりに親しげに「いっちゃん」と呼ぶものですから、つい本名かと勘違いしそうになりますが、現代のマッサージ屋の人が、ネームプレートにあだ名を書いているのと同じです。
生まれながらに目が見えない市は、自分をバカにしたヤツらを見返すために抜刀術を覚え、剣客になり、時には腕を買われて侠客(ヤクザ)の用心棒をやることもあります。
大人になった市は自分が盲目なことをちょっと馬鹿にされたくらいでは怒りません。
しかし、普段は温厚でも友人や恩人が危険にさらされれば、躊躇わず抜刀術を披露する冷徹な一面を持っています。
実直で女性に疎い場面もあり、人格もとても魅力的です。
多くのオマージュ作品があり、漫画『ワンピース』にも「藤虎」という座頭市から影響を受けたキャラクターが登場します。
これがホントの抜刀術。なんちゃって居合斬りとは一味違うかっこよさ。
特技は抜刀術であり、そしてこの市が魅せる抜刀術が、またかっこいいのなんの。
鮮やかな殺陣に思わず目が惹かれます。監督の演出がかっこいいというのもありますが、実は“抜刀術”というものが、盲人の市とバツグンに相性がいいんです。
“居合斬り”“抜刀術”と聞くと、見たことがある人は、いかにも達人という人が、畳を斬る様子が思い浮かぶと思います。
見たことがなくても、アニメや漫画では、多くのかっこいい居合斬りのシーンがあります。
「刀をぱっと抜いて、鞘に収めると敵がバタバタ倒れていく。」
しかし、市の居合切りは、アニメや漫画の“なんちゃって居合斬り”とは違う、本物の抜刀術、“相手を殺す技”をみせてくれます。
本来、抜刀術は、2回斬るものです。もちろん一撃目で相手を斬るというのもありますが、相手が抜刀していて、自分は納刀状態というのは、すでに出遅れた状態であり、“受け身”の姿勢なんです。
相手の刃を抜刀後の一撃で受け流し、間髪入れない二太刀、三太刀目で確実に相手を切り伏せる。
これが抜刀術なんです。
そのため、抜刀術の動画を観ると、畳を2回斬るか、1度刀を振り上げてから畳を斬っていると思います。
盲目である市がいかに、達人で相手の息遣いや足運びで居場所が分かるとも、それでも初太刀で相手を倒すのはほぼ不可能です。相手が達人であれはなおさら。
刀を抜き、一撃目で相手の場所を知る。
一撃で倒せれば結構、倒せなくとも刀が相手の刃、もしくは衣服や腕に触れるか確かめる、触れなければ距離を取り、触れれば二太刀目で相手を斬る。
これが、盲目である市が編み出した相手と対等にやり合うための本物の抜刀術だと思います。
そしてその魅力が最大に引き出されたのが、夜道を襲いに来た刺客を倒すシーンです。
とある夜、ヤクザ同士の聞いてはいけない会話を耳にしてしまった市を、刺客が2名が襲います。
夜道を付き添ってくれた少年を家に帰し、市は提灯の炎を“フッ”と消してこう言います。
「これであんた達も同じ条件だ。」
これはあくまで相手を自分の間合いに入れる挑発のセリフです。いくら灯りが消えたからといって、完全に目の見えない市にハンデがあることは事実です。
しかし、そのハンデをいかにも知恵でなくしてみせたかのような発言に、腕自慢の刺客はブチ切れて斬りかかっていきます。
刺客の大ぶりの一撃を難なく受け流し、市目にも鮮やかな抜刀術で相手を斬り伏せてしまいます。
この時の勝新太郎のかっこよさときたら、しびれてしまいますね。
4Kデジタル修復版ならではのおもしろさ。表情や風景はよりかっこよく。
映画館の大画面、映像が綺麗になったことでより演者の表情や風景に味が出ます。勝新太郎の顔が本当に味があって、いい意味でおもしろいです。
海外のマフィア映画にもダンディで渋いおっちゃんがでてきますが、やっぱり日本のおっちゃんも負けていません。
海外のおっちゃんにはない、表情から感じるユーモア、愛嬌、そしてかっこよさがあります。
ほうけた顔をする時もあれば、目を見開いて怒りをあらわにするときもあり、そして大切な人を亡くしたときはくしゃくしゃの泣き顔をみせます。
それでも観客にかっこいいと思わせるのは、さすがとしかいいようがありません。
他にもBGMが消えて、自然音だけになり緊張感が出るシーンなんかは4Kデジタル修復版になることによって、より凄みをましたように感じました。
三隅研次監督による絶妙な演出を没頭して楽しむことができました。『座頭市物語』はここからシリーズ展開していきますが、やはり第一作目は別格。
ファーストガンダムがそうであるように、現代の様々な作品に影響を与えた『座頭市物語』は、まさに伝説の作品と言っていいと思います。
白黒映画ということで少し抵抗があると思いますが、まだ未視聴の方がいれば、ぜひおすすめしたい1本です。